相続人以外でも相続が受けられるケースも?特別の寄与の制度とは?

相続に関していろいろとルールが変わりますよ、ということは解説していますが、「特別の寄与の制度」という制度は、大きな変更点の一つと言えます。

 

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特別の寄与の制度とは?

これまでは、相続人以外の人が、被相続人(なくなった人)の介護にいくら尽力しても、相続財産を取得することができませんでした。

 

よくあるケースとして、被相続人と同居している長男、別居している次男、長女の三人がいて、その3人にそれぞれ配偶者がいたとします。次男・長女は、疎遠で、介護を手伝うどころか、会いにも来ません。

 

でも、長男には子供が産まれることがなく、しかも被相続人より先に事故で亡くなったとしましょう。そして配偶者に当たる妻が被相続人の介護をしてきて、その後被相続人が死去。

 

この場合、介護に尽力した配偶者は、どれくらいの相続ができるでしょうか?

 

実は、これまでの制度なら、遺言などがない限りは、1円も相続できませんでした。義理の父であっても、です。

 

一方で、次男・長女で被相続人の遺産を半分ずつ、総取りできてしまいます。

 

これは介護で頑張った配偶者が気の毒でしょう、ということで、2020年7月の民法改正後は、相続開始後に、配偶者が相続人に対し、金銭の請求ができるようになりました。

 

具体的に、いくらの額が請求されるという事は明確化されていませんが、介護の労力に報いるだけの金額は請求できるようになると思われます。

 

ただ、何も手続きをしなければ請求はできませんし、これまでどれだけ介護に尽力してきたかを記録、立証できる日誌やその他証拠など、「これまで介護でこれだけ労力を払ってきたんですよ」と言える根拠資料は必要でしょう。

 

また、実際に請求を行う上では、弁護士など専門家の助力が必要になる可能性があると想定されます。

 

具体的な請求額が決まっていないからこそ、事前に相続対策を専門家に相談した方がベター

法務省のパンフレットなどでも、特別の寄与の制度で、寄与した人がいくら請求できるということは、数字で明確化されていません。

 

だからこそ、今後相続対策を考える上では、介護に尽力した人の分も踏まえて、遺産分割案を検討していく必要があります。

 

これは、相続人だけで話し合いがつけばベストですが、心配な点がある場合は、事前に専門家に相談して、対策・特別寄与者への配慮を考えておいた方がよいでしょう。

 

注意点は、被相続人の親族が無償で非相続人の療養看護等を行っていること

特別の寄与の制度で注意すべき点は、親族が「無償で」療養・看護を行っていることが前提と言うことです。

 

つまり、生活費を受け取ったり、被相続人の財産から生活費を出していたりした場合は、無償ではないため、特別の寄与の制度の対象外になります。

 

そのため、義理の父・母の療養看護等を行っている場合は、お金を引き出すときに、「この引き出したお金は療養看護のためだけに使いました」ということが立証できるよう、レシートや出納記録など、資金使途が療養看護等だけのものであることを明確にし、自身の為に使っていないことを証明できるようにする必要があります。

 

裁判にせよ、調停にせよ、あらゆる法的手続きは、記録・証拠が全てで、いくら療養看護等に尽力しても、それを第三者に立証できる記録や資料を残しておかないと、いくら権利があっても活用できませんし、逆に、きちんと記録をしておかないと、被相続人の財産を使い込んだと誤解されてしまう可能性さえあります。

 

そのため、療養看護等をせざるを得ない状況、かつ相続権のない人は、ぜひ「無償で療養看護等を行いました」と立証できるよう、記録や資料、通帳での引き出し時には、何のために利用したかを通帳とノートにメモするなど、きちんと後から立証できる証拠を残しておくことを、強くお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年7月の民法改正で、遺留分制度が見直し!注意点は?

2020年7月の民法改正による相続ルールの見直しについて、今回も説明しますね。

 

まず、遺留分という言葉について、なじみがない人もいらっしゃると思うので、簡単に説明します。

 

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遺留分とは?

遺留分とは、配偶者と子供(子供がいない場合は親)が、一定の割合の預貯金・不動産などを、遺言などの内容にかかわらず請求できる権利です。遺留分は、黙っていてももらえるものではなく、遺留分を有する側から、「遺留分減殺(げんさい)請求」という手続きを行わないといけません。

 

ここからより詳しく説明していこうとすると、長くなるので、ざっくりと「配偶者・子供は相続財産の一部を遺言にかかわらずもらえる権利があるんだ、子供がいなければ両親が権利を持つんだ」ぐらいに抑えておいて下さい。(ちなみに、兄弟姉妹は遺留分がありません)

 

遺留分は、土地建物などの共有ではなく、お金で直接支払って!という形に変わる

これまでは、遺留分に関して、現金ではなく、土地建物の一定割合を相続させることでが可能でした。

 

しかし、2020年7月からは、「遺留分の支払いは現金で!土地家屋はNG」という形になります。

 

ただ、遺贈や贈与を受けた側からすると、遺留分の請求者から「いきなり現金で払って!」と言われても、すぐに対応できるとは限りません。一番大変なのが、会社の土地建物など不動産の資産は多いけど、現預金は少ないというパターン。

 

この場合は、裁判所に対し、「すぐに金銭を用意することはできないので、支払期限の猶予を求める」という手続きができます。

 

これも法務省のパンフレットの事例を元に説明してみましょう。

 

経営者(ここでは被相続人にあたる)が亡くなり、妻は既に死去しており、相続人は長男・長女の二人の状態。

 

被相続人の財産として、評価額1億2千万円の土地と、預金が1,200万円あったとします。

 

被相続人は、「私の事業を手伝っていた長男に会社の土地建物全て(評価額1億2,000万円相当)を、長女には預金1,200万円を相続させる」という遺言を作成。

 

このケースで、妻が亡くなっており、相続人は子供2人という状態だと、遺留分は、半分の半分、つまり4分の1となります。

 

そこで、具体的に遺留分侵害額(長女側がもらえる権利がある額)を計算すると・・・

 

 

1億2,000万円+1,200万円=1億3,200万円

1億3,200万円×4分の1=3,300万円

つまり、長女側は3,300万円をもらえる権利があるわけです。

 

これまでだと、1,200万円の現金に加えて、さらに2,100万円の現金を用意するのは難しい、ということで、土地家屋を共有することで、直近の金銭負担を減らせるようになっていました。

 

しかし、民法改正後は、3,300万円を現金で支払わないといけません。

 

延納の手続きはできるとは言え、現金がなければ借入等を行い、現金を用意せざるを得なくなるため、事業や家を承継する人に取っては大変です。

 

一見、土地家屋の物納もOKがいいんじゃない?と思えるが・・

この話を聞くと、2,100万円の分も、現金の代わりに物でOKの今の制度がいいのでは?という人も多いでしょう。

 

しかし、物納をOKにすると、土地建物が複雑な共有割合になり、更に、長女が死亡するなど更に相続が発生すると、共有分が更に分割され・・・と、どんどん土地家屋の所有権者が増え、権利関係が複雑になってしまいます。処分や建て替えをしようにも、基本的には所有者全員の合意がないと手続きができません。

 

そこで、物納はNG、あくまで金銭債権(現預金)で、遺留分を請求するという形になりました。

 

正直、土地を引き継ぐ方は、今回の改正で不利になる一方、これまでは「ハンコ代」などの形で、遺留分ほどではないけれども、まとまった金額をもらうことで妥協した、土地を引き継がない相続人に関しては、遺留分として一定額を現金で請求できる、という有利な状況になります。

 

そのため、特に土地家屋を相続する、事業を相続する側は、これまで以上に他の相続人、その中でも遺留分を有する人に対する配慮が重要になってきます。

 

親から事業を引き継ぐ、土地を引き継ぐという人は、ぜひその点気をつけて下さいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

民法改正で、夫婦間の居住用財産は、贈与(遺贈)における優遇措置などが変更された

こんにちは。

タイトルからして、「え、これどういうこと?」という印象を持つ人も多いでしょうが、お客様にお伝えするように、できるだけやさしく説明していきますね。

 

2020年7月からの民法改正で、配偶者(奥様・旦那様)が亡くなった人が、その後も家に住み続けやすいようにする方向が定められました。

 

ポイントを2点挙げると、

  1. 配偶者が相続開始時に、被相続人所有の建物に居住していた場合、配偶者は遺産分割において配偶者居住権を取得することにより、終身または一定期間、その建物に無償で居住できる
  2. 被相続人が遺贈等によって、配偶者に配偶者居住権を取得させることもできる

という点が挙げられます。

 

正直、文章だけ見ると、「・・・どういうこと?」と言われそうですが、これまでの事例と、民法改正後はこうなるという事例を並べてみると、わかりやすいかと思いますので、事例比較を出してみますね。

 

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民法改正前の場合

被相続人が遺産として、評価額2,000万円の家と、3,000万円の預金を持っていたとします。相続人は妻と別居している長男一人だけです。

 

法律通りに遺産分割をすると、妻と子供で2,500万円分ずつの財産を相続する形になります。

 

当然、妻はこれまでの家に住み続けるため、法律通りに分けると、妻は自宅(2,000万円)と500万円の預金を受け取ることになります。(これに加え、相続税も払う想定をする必要があります)

子供は預貯金をそのまま2,500万円受け取る形になります。

 

こうすると、妻としては、家は残るけれども、限られた財産で生活をしていかないと行けないという状況になります。

 

民法改正後の場合

2020年7月の民法改正後は、配偶者は、「自宅に住みつつも、その他の財産も取得できるようになります。

 

具体的には、妻は配偶者居住権として1,000万円分と預金1,500万円を相続、長男は負担付き所有権として1,000万円を相続、同時に預金1,500万円を相続する形となります。

 

ここでキーワードとなるのが、「配偶者居住権」と「負担付き所有権」です。

 

「配偶者居住権」と「負担付き所有権」ってなに?

配偶者所有権は、「いままで配偶者さんと住んでいた家に、これからも住んでいいですよ、ただし第三者に譲渡したり、所有者に無断で建物を賃貸したりすることはできません」という、限定的な所有権と言えます。

 

一方、負担付き所有権は、自宅の所有権を持つことができるという側面がある一方、相続において現預金の取り分は減るという点があります。

 

そのため、子供としては「まあ仕方ないか・・・」で済んでも、強欲な配偶者がいる場合、「そんな使い道のない家の所有権なんてたいしたお金にならないでしょ!それより預貯金の方をもっと相続しなさい!!」と、横やりを入れてくる可能性があります。

 

このように、制度上は、配偶者が亡くなるまで住み続ける権利を確保できる機会を与える一方、配偶者以外の相続人にとっては、自分の現預金の取り分が大きく減少してしまう可能性があるため、マイナスに働く場合も想定できます。

 

配偶者居住権以外にも、配偶者短期居住権というのも創設された

様々な事情で配偶者居住権が活用できない場合でも、配偶者に「すぐに家から出て行って下さい」というのは、道義的に酷です。

 

そのため、「配偶者短期居住権」という制度も創設されています。

 

配偶者が相続開始時に、遺産に属する建物に住んでいた場合、いきなり出て行ってもらうのではなく、一定期間(例えば、遺産分割が終了するまで)は、無償でその建物に居住できるようにしようよ、というのが配偶者短期居住権です。

 

ただ、どの制度を活用するにせよ、相続に精通した税理士など専門家の相談、土地家屋の評価額については不動産鑑定士の鑑定など、専門家への依頼が要されます。

 

その点、積極的に専門家に相談し、最適な方法を探るようにして下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年7月1日から始まる、相続の預貯金払戻制度について

2020年7月から、相続の仕組みがいろいろ変わると言うことで、今回から数記事使って

「相続に関するルール変更」について説明していきますね。

 

仕事で法務局とか商工会議所とか行くと、法務省の「相続に関するルールが大きく変わります」というパンフレットが置いてあります。

 

これを下敷きに、よりかみ砕いて説明していきますね。

 

遺産分割が完了しなくても、それぞれの相続人が一定の範囲で預貯金の払い戻しを受けられるようになった

これまでの場合、どの相続人であっても、遺産分割協議書が整ったり、相続人全員が金融機関所定のひな形にハンコを押さないと、預貯金の払い戻しは受けられませんでした。

 

(実情として、相続が発生すると、金融機関が口座を止める前に引き出すというケースも結構多かったようですが・・・)

 

ただ、一般論として、遺産分割の話し合いがまとまらないと、生活費や葬儀費用の支払い、債務の弁済など支払が必要でも、預金の払い戻しができないのは不便ですよね。

 

そこで、2020年7月の改正からは、下記の2点が変わりました。

  1. 預貯金の一定割合(上限あり)については、家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口における支払を受けられるようにする
  2. 預貯金債権に限り、家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件を緩和する

 

特に2については、「どういうこと?」という疑問が来そうですが、もう少し詳しく説明してみましょう。

 

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預貯金の一定割合(上限あり)については、家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口における支払を受けられるようにする

相続開始時の預貯金債権の額×3分の1×当該払い戻しを行う共同相続人の法定相続分

→単独で払い戻しをすることができる額

となります。

 

こうしてみると余計に「え?」となるので、実例を出してみましょう。

亡くなったお父さん(被相続人)と、長男、次男の2人の相続人がいます。

お父さんには600万円の預金が金融機関にありました。

 

この場合、相続開始時の預貯金債権の額×3分の1は200万円、

そして相続人は2人いるので、200万×2分の1で、長男、次男が引き出せるのは、それぞれ100万ずつになります。(なお、一つの金融機関から払い戻しが受けられるのは150万円までです)

 

預貯金債権に限り、家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件を緩和する

これが一般の人にとっては、「?」となる部分ですが、かみ砕いて言うと、

「仮払いの必要性があると認められる場合には、他の共同相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の判断で仮払いが認められる」ということになります。

 

具体例として、葬儀で180万円かかりました、でも1の制度で長男が引き出せるのは100万なので、80万足りません。

 

こう言う場合に、80万であれば、金額として次男の相続人の利益を犯すこともないので、仮払いを裁判所の判断で認めますよ、というのが新しい制度なのです。

 

このように、小口の資金需要に関しては、遺産分割の話し合いの終了を待たずに引き出せるようにし、ある程度大口の需要であっても、家庭裁判所の判断さえ通れば、引き出すことができるようになる、というのが今回の民法改正による、預貯金の払戻制度のポイントです。

 

以前ですと、亡くなる前に葬儀費や諸費用を予め銀行口座から出しておこう、という方式もありましたが、今後は、きちんと証明ができれば、銀行口座から相続人それぞれが、状況に応じて制度の範囲内で払い戻しを受けられるようになります。

 

このように、2020年7月の民法改正による相続制度の変更の影響は、いろいろな部分に現れてきます。これから数回、民法改正で相続制度がどう変わるかを、法務省が公式にパンフレットにした資料を元に説明して行ければと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

改正民法施行を踏まえた、遺産分割の注意点とは?

 


当ブログでは、実務で得た経験や、改正民法も踏まえ、個人相続や事業承継などについて扱っていきます。

 

今回はトピックとして、改正民法を踏まえた遺産分割の注意点についてまとめていきます。

 

まず、「遺産分割」という言葉の定義ですが、「相続が発生(=親などが逝去)したときに、相続人に当たる人たちが話し合い、遺産の分け方を決める話し合い」と定義できます。

 

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遺産分割・もめる家、もめない家

 

この遺産分割の手続きに関しては、スムースに行くケースもあれば、もめるケースも少なからずあります。

 

例えば、地方の経営者の場合、株式などの問題もあるので、業務の後継者が株や会社の経営を引き継ぎ、他の親族はお金など、いわゆる「ハンコ代」として一定の金額を受領することが多い傾向です。

 

逆に都市の場合や、地方でも、相続人の配偶者(夫・妻)に権利意識が強いと、遺産分割が難航するケースがあります。

 

例えば、会社経営の夫が死去、妻と長男、次男が相続人となり、長男が会社の経営を引き継いだとします。しかし、現金分はさほど多くなく、財産の大半が土地家屋と会社の株式という場合、もし配偶者が口出しをしてくると、一気に相続は難航します。

 

なぜなら、昔は法律情報にアクセスしにくく、ある意味兄弟間であれば「お互い様」という意識がありました。しかし現在の場合、ネットで調べると、様々な法律情報が出てきます。

 

そのため、ネットで得た断片的な情報を元に、「遺留分(遺言書の内容等にかかわらず、相続人が請求できる相続分)だけでもしっかりもらわないと!」という考えを持つ人は増えています。

 

確かに法格言で、「権利の上に眠るものは保護に値せず」という言葉があります。

 

一方、遺産分割においては様々な感情が絡むのも事実です。小さい頃から一緒に過ごした兄弟と、顔を合わせることもめったにない配偶者では、前者は「できるだけ穏便に遺産分割をしたい」、後者は「貰えるものはしっかりともらいたい」という気持ちになるのは仕方ないでしょう。

 

遺言書は絶対ではない

まず、遺言書の内容を覆すことはできないが、「遺言書の内容が絶対ではない」ということは、強く強調します。(なお、遺言書を作成者以外が書き換えることは犯罪となり、相続人としての地位を失うこともあります)

 

なぜ遺言書の内容が絶対ではないかというと、

  • 相続人全員の合意があれば、遺言書と異なる内容で遺産分割を行っても良い
  • 仮に、特定の財産を、特定の第三者に相続させる場合でも、子供・親に関しては「遺留分」として、法定相続分の2分の1を、最低限の権利として主張できる

という理由があるためです。

 

特に事業承継と相続が同時に発生する場合は大変

特に相続でもめるのが、企業経営者・個人事業主を行っている人が亡くなった場合です。

 

企業経営者の場合は、企業の株主(所有者)であり、経営にも代表取締役や会長などなどの形で深く関与しているケースが多いです。

 

個人事業主の場合も複雑です。事業における財産や借入、業務に関する許認可、従業員、取引先などとの契約、特許権など様々な権利が相続対象になります。

 

必然的に、評価金額が大きくなるため、数字の上では「事業を継続する人とそれ以外の人」で不公平感が出ることは否めないでしょう。

 

実務では、このような「引き継ぐ人はたくさん貰えて、そうでない人はもらえない」という事を防ぐために、「代償金」という形でまとまったお金(一括で用意できない場合は分割)を支払うこともあります。

 

ここで、相続人同士の話がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停・審判など長引く形もあります。弁護士に依頼することになるため、数十万以上の費用もかかることとなります。

 

期間も当然通常の相続より伸びますし、相続人間の関係悪化と出費増など、良い結果にはつながりにくいというのが率直なところです。

 

改正民法で自筆証書遺言が作りやすくなったために想定される、遺産分割トラブル

民法の改正により、自分で作成する遺言、いわゆる「自筆証書遺言」の作成がパソコンなどででき、法務局に原本を保管することもできるようになりました。

 

ただ、私個人としては、専門家の目を通していない自筆証書遺言の増加が、遺産分割のトラブルを誘発するのではないかと懸念しています。

 

これまでは、遺言書を全て自分で書き、自宅に保管するという形式でしたので、「だったらちゃんと専門家に関与してもらい、公正証書遺言を公証人役場で作成しよう」という方も多かったのですが、公証人役場で公正証書遺言を作成すると、数万から十数万円、時にはそれ以上の費用がかかります。参考:日本公証人連合会(公証人役場での遺言作成費用

 

今回の民法改正で自筆証書遺言の敷居が低くなると、「お金もかかりにくく、書き換えも自由にできる自筆証書にシフトする流れもでてくるかと思います。

 

しかし、遺言には厳格な様式が定められていることに変わりはありません。そのため、専門家の目が入らず、結果として遺言の様式として不適切な内容になってしまう恐れがあります。

 

ですので、専門家としては、遺言を従来通り公正証書遺言で作成、原案も専門家の確認を経ることが、結果として遺産分割をスムースにできると考えます。

 

 

 

 

 

令和2年7月10日より始まる、法務局での自筆証書遺言書保管制度とは?

令和2年7月10日より、法務局で自筆証書遺言を保管してくれる制度がスタートします。

 

あまりアピールされておらず(他のところが忙しいという点もありますが)回りの知人と話していても、専門職の人以外はあまりご存じない制度ですが、活用法を理解して使いこなせば、非常に便利で、コストも安く付く制度と言えます。

 

今回は、自筆証書遺言書保管制度の概要と、自筆証書遺言保管制度を活用することが適した人について解説します。

 

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自筆証書遺言書保管制度ってなに?

制度をシンプルに説明すると、

  • 法務局で遺言書を保管してくれる
  • 法務局で遺言書の内容はチェックしない
  • 自筆証書遺言の偽造、変造を避けることができる
  • 家庭裁判所での検認手続きが不要のため、相続発生時に手続きがスムース
  • 公正証書遺言のように、数万~十数万の公正証書遺言作成費用がかからず、1通3,900円で遺言書をずっと保管してくれる
  • 遺言書の差し替え、保管の撤回などもできる

という、使いようによっては非常に便利な制度です。

 

なぜ、自筆証書遺言保管制度ができたの?

なぜ法務局で、自分で書いた遺言を保管してくれる制度ができたのかというと、

  • 自分で書いた遺言書は、自宅で保管されることが多い
  • 遺言書がなくなったり、悪意を持った法定相続人がわざと遺言書を捨てたり、隠したり、改ざんする可能性がある
  • 公的機関・それに類する組織で遺言を保管する制度はあるけれども、公正証書遺言は費用が高くて敷居も高いので、より多くの人に遺言の仕組みを使いやすくする必要があった
  • 相続後の不動産などの登記手続きが放置されるケースも多く、手続き漏れを防げる

 

など、預ける側にも、法務局にもメリットがあるからです。

ただ、万人にお勧めできるかというと、必ずしもそうとは言えません。

 

自筆証書遺言保管制度を活用すべき人は?

  • 複雑な事情のない人
  • 夫婦だけで、親か兄弟はいるが、子供がいない人

このケースの場合に、特にお勧めできます。

 

これまでだと、公正証書遺言を作るのが、全てにおいて確実な方法でした。今もお金がある場合や、複雑な家庭の事情(もめ事)がある場合は、公正証書遺言を作成した方がいろいろな意味で安心です。

 

一方で、複雑な事情はないが、遺言書を書いておき、特定の人に財産を渡したい場合や、夫婦だけで子供がいない場合は、自筆証書遺言保管制度を活用することを強くお勧めします。

 

子供がいない夫婦の場合、ぜひ自筆証書遺言保管制度を活用!

個人として常々お伝えしていることなのですが、「子供がいない夫婦(特に子供がいないけど兄弟姉妹がいる夫婦)」は、遺言書をぜひ作成してほしいと思っています。

 

本来なら相続の第一順位に当たる子供がいない夫婦の場合、相続が発生(夫婦のどちらかが亡くなる)と、両親がご尊命の場合は親(第二順位)、両親がお亡くなりになっており兄弟姉妹がいる場合(第三順位)は、兄弟姉妹が相続人になります。

 

親の場合はまだいいのですが、兄弟姉妹の場合が問題です。

 

兄弟姉妹の仲が良くなかったり、あるいは兄弟姉妹の配偶者が「もらえるものはしっかりもらっておきなさいよ」と権利を主張する人だった場合、ややこしいことになります。

 

もし、子供なし、兄弟姉妹ありで遺言書を書いていなければ?

相続人が、本人(男性)、配偶者と弟2人とします。このケースの場合、遺言書を作成していなければ、法定相続通りにすると、配偶者は4分の3、弟2人は4分の1を2人で分け合う、つまり8分の1を相続することとなります。

 

兄弟の仲が良く、兄弟の配偶者も理解がある人であればいいのですが、もし兄弟が「法定相続分を相続させて!」と言ってきたら問題です。

 

遺言書で夫が場合「遺言者に属する一切の財産は、妻(名前・生年月日を記載)に相続させる」としておかないと、法定相続分が弟2人の方に行く可能性もあります。

(ただし、相続人全員で話がまとまれば、法定相続分とは異なる分け方もできます)

 

兄弟姉妹は、遺留分がないため、遺留分減殺請求を主張できない

いきなり専門的な言葉を出しましたが、意外とこれも知っている人と知らない人の差が大きいので、ちょっとかみ砕いて説明しますね。

 

配偶者、子供、親は、遺言でいくら相続させないと書かれていても、一定割合は自分が相続できるようになる、「遺留分減殺請求」という手続きができるんですね。

 

でも、兄弟姉妹の場合、「遺留分」は存在しません。

 

つまり、遺言書で夫なり妻なりが、自分の財産は全て配偶者に相続させますよ、と書いておけば、スムースに全財産を配偶者に渡せるわけです。

 

こういうケースのご夫婦にとって、自筆証書遺言保管制度は、費用も安価で、遺言もシンプルなもので済むのでぴったりです。

 

自筆証書遺言保管制度を使わない方がいい人は?

まず、いろいろな事情(認知していない子供がいる、勘当した子供がいる、その他家庭に特殊なこと)がある場合は、専門家に依頼し、公正証書遺言をを作成した方が確実でしょう。

 

また、会社経営や個人事業主の場合も、様々な権利や株式の問題が絡むので、専門家に相談した上で、公正証書遺言を作成する形とした方がよいと言えます。

 

また、自筆証書遺言保管制度では、遺言書のチェックは行わないため、遺言の内容に誤りがあると、遺言書として機能しない可能性もあります。

 

そのため、確実な遺言を作成したい場合は、専門家を通して、公正証書遺言を作成した方がよいと言えます。

 

いずれにしても、今回の新制度は、家族構成によってはとても有用な制度です。ぜひ、法務局のサイトで確認してみてください。

 

 

 

 

自筆証書遺言書の開封はNG、家庭裁判所での検認手続必要。今後自筆証書遺言書でも検認不要になる新制度も

これはほんとうにうっかりや興味本位などでやってしまう人が多そうなので、事前に警鐘を鳴らしておきますが、「自筆証書遺言書の開封は絶対ダメ」です。

 

勝手に開封すると、自筆証書遺言書を入れ替えたり改ざんしたと疑われる、開封者に5万円以下の過料が課せられる恐れがあるからです。(なお、開封した場合でも、自筆証書遺言書の入れ替えや変造・偽造などが行われていない限りは、自筆遺言書の効力は有効です)

 

必ず、家庭裁判所で「遺言書の検認」という手続きを行いましょう。

(なお、公正証書遺言書の場合は、家庭裁判所での検認手続きは不要です。そのため、多くの専門家は公正証書遺言を勧めている傾向です)

 

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「遺言書の検認」とは?

検認手続きとは、家庭裁判所が相続人全員に遺言書の存在を知らせ、遺言書に変造・偽造・不審な点がないかを確認する手続きです。

 

検認の手続きは厳密です。

  1. 家庭裁判所に検認の申立を行う(故人の住所地を管轄する家庭裁判所)
  2. 検認に必要な収入印紙800円と郵便切手(家庭裁判所が指定)を、家庭裁判所に確認の上用意
  3. 検認申立書・遺言者の出生から死亡までの全ての戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本を準備
  4. 家庭裁判所に連絡し、必要書類の送付を行う
  5. 家庭裁判所より検認を行う日が郵送で通知される(相続人全員の出席が原則だが、やむを得ない場合は欠席も可。しかし、最低誰か一人は出席する必要あり)
  6. 予定期日に家庭裁判所で裁判所の検認を受ける。遺言書・認印、その他指定物を忘れないこと
  7. 裁判官が相続人立ち会いのもと、遺言書を開封し、状態・内容・不審な点がないかを確認
  8. 立ち会った相続人の同意が得られれば、「検認済証明書」の発行を申請(収入印紙150円と申立人の印鑑が必要)

 

と言うように、遺言の検認は非常に手間がかかります。それもあってか、令和2年7月10日から、法務局における自筆証書遺言書保管制度が始まるわけです。

 

法務局に自筆証書遺言を預けておくことで、(内容が適正化についてはチェックしない仕組みとなっていますが)家庭裁判所での遺言の検認手続きが不要となり、1ヶ月以上の時間と、相続人が開封に立ち会う手間をなくすことができます。

 

ただ、当面の間は、自筆証書遺言を自分で保管する方法と、法務局で保管する方法は、どちらも利用される形となる可能性が高いと推定します。

 

そもそも、今の社会状況(具体的には書きません)だと、法務局に行って手続きをしようとか、そもそも、「自筆証書遺言保管制度」に関する情報自体入ってきませんよね・・・

 

ですので、当面は、新制度の認知は進まないという前提で考えておいた方がよいかと思います。

 

遺言書、見つけたらどうする?

改めての復習になりますが、遺言書を見つけても、自分で勝手には開けないことです。

例外として、封をしていない自筆証書遺言については、開けたかどうかがそもそもわかりませんし、公正証書遺言の場合は、検認手続きは不要のため、開けたから過料が・・ということこそありません。

 

しかし、相続人同士での心情の問題として、封をしていない遺言書であっても、やはり見つけたら極力相続人全員で確認した方がよいでしょう。

 

そして封がしてあれば、必ず家庭裁判所に連絡し、検認の手続きについて指示を仰ぐこと。

 

自筆証書遺言・公正証書遺言など遺言の種別を問わず、法定相続人及び遺贈の指定を受けた人全員が同意すれば、遺言書と違う分け方もできる

意外な注意点として、原則としては法定相続人、また遺言で法定相続人以外への遺贈がある場合は、その遺贈を受ける当事者も含め、全員の合意(遺産分割協議書など)があれば、遺言書と違った分け方をしても問題はありません。

 

もちろん、遺言作成者の本旨に沿うことが理想ですが、様々な事情で、遺言通りの相続を行うことが望ましくないケースもあるかもしれません。

 

その場合は、遺言書と異なる相続・遺贈を行って問題はないのです。

 

ただ、相続人・遺贈の対象者に対し、「この遺言書の内容でなくてもいいよね」と思わせてしまうような遺言であっては、何のために作成したのかということになってしまいます。

 

遺言を作成した気持ち・理由をきちんと伝えるためにも、遺産分割の詳細だけでなく、なぜこのような分割内容にしたかという点や、相続・遺贈対象者に対する一人一人への言葉を「付言事項」として遺言書にしっかりと盛り込み、相続人など当事者の納得を得られるような配慮も必要でしょう。

 

実務上、一般家庭ではめったにみられない、イレギュラーな秘密証書遺言

余談になりますが、遺言作成者が自分で作成、公証人役場で手続き、本人が保管する「秘密証書遺言」というのも存在します。こちらに関しては、公正証書となっていますが、封がしてあれば家庭裁判所での検認は必要となります。

 

基本的にはお目にかかることはないかと思いますが、いずれにせよ封がしてある遺言書は、必ず家庭裁判所に検認してもらうということを抑えておいてください。

 

 

遺言書の書き方の本でお勧めのものは?

仕事柄、「遺言書そろそろ書こうと思っているんだけど、書き方教えて」、とか「遺言書でわかりやすい書籍ってない?などよく聞かれます。

 

前者の「書き方教えて」に関しては、「作成指導料いただくけどいい?」と返しますが、「わかりやすい書籍」というと返答に困るのが正直なところです。

 

というのは、遺言書の書き方に関する本で市場に出回っている物でも、法改正前の内容の物であったり、「遺言の書き方」にこだわりすぎていて、結局普通の人にとってはわかりにくい・・・というケースも多いからです。

 

その中で、

  • ざっと正しい形式がわかれば良い
  • いろいろな事情があり、遺言書を厳密に作成したい

とう2つのニーズに対応するサイト・書籍をそれぞれ紹介します。

 

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大まかに正しい遺言書の形式を知りたい場合は、法務局の作成例を参考に

遺言書を作成する上で、大体内容は決めており、相続内容も複雑ではない場合、まず法務局の自筆証書遺言保管制度のページに、簡単な遺言書の書き方があるので、そちらを参考にしてみましょう。

 

この記載例で、遺言に必要なポイントは抑えてありますので、まずこちらに目を通してみてください。

 

遺言書の書き方を、より深く知りたいときに適した書籍は?

法務局のサイトを見て、「ウチはいろいろと特殊な事情があるんだよな」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。

 

より遺言書の書き方を深く知りたい場合は、「令和版 遺言の書き方と相続・贈与」(主婦の友社)が比較的わかりやすいと個人的には感じました。

 

遺言書の基本(自筆・タイトル・相続と遺贈の違い・押印・作成年月日・訂正法)に加え、下記のようなトピックを扱っています。

 

  • 自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言・一般危急時遺言(実務上はめったに使われない)について
  • 民法改正が遺言書の様式に及ぼした改正点
  • 法的に遺言できる内容と、できない内容
  • 特別にしてくれた法定相続人以外の人に遺贈するときの注意点
  • 公正証書遺言の作成プロセスとポイント
  • 遺言を撤回・変更する際にはどうするか
  • 遺言書の保管や、法務局に預けず自分で管理する遺言の保管の工夫
  • 遺言が正しく機能するために、遺言執行者を指定する方法と遺言執行者の選び方
  • この人には相続させたくないという法定相続人の廃除申立(要件が厳しいです)
  • 財産目録を作成する上でベースとなる作成メモ

など、遺言書作成全般に関する疑問を、幅広くフォローしてくれます。

 

また、自筆証書遺言を作成するケースについても、

  • 表題の注意点
  • 日付・署名・押印の3点セットの重要性
  • 適した用紙と適した筆記具(もちろん、シャープペンだけでなく、消えるボールペンもNGです)
  • 日付に関する注意点
  • 遺言書の直し方(加除訂正)
  • 特定の財産を特定の人に相続させる場合の、他の相続人に対するフォローの仕方
  • 特殊な家族構成の場合の遺言作成の注意点
  • 相続財産を分割する指定方法
  • 特定事業を継がせたいときの書き方
  • 相続権のない人に財産を遺贈するための遺言書の書き方
  • お世話になった人への遺贈や、財産の一部を寄付する場合の注意点
  • 財産相続に条件をつけたい場合(親の面倒を見る、ペットの面倒を見るなど・・)
  • 障害のある子供のために、財産を信託にする
  • 葬儀の希望やその他周囲への感謝を伝える

など、自筆証書遺言で疑問となる様々なトピックを扱っています。

 

さらに、相続の基本・贈与の基本などについても法改正を踏まえてフォローしています。

1つ挙げると、意外と見落とされがちな点ですが、遺留分減殺請求制度が変更になりました。

これまでは、遺留分を土地建物の共有という形で出すことも認めていたのですが、土地建物の共有は、二次相続・三次相続など後の相続でトラブルを発生させかねないので、金銭支払飲みとして、すぐに金銭で支払えない場合は、一定の猶予を出すこととしました。

 

このように、遺言書の内容は、深く掘り下げていくと非常に複雑になります。

 

また、遺言書だけでなく、相続全体を通し、「かつかみ砕いてある」書籍(ムック)としては、「相続・贈与がまるごとわかる本 民法大改正対応版」もおすすめです。

 

こちらは、遺言書の基本や、遺族が損しないための遺言作成の注意点などを雑誌テイストで書いており、わかりやすいと個人的に感じます。

 

いずれにせよ、最初から完璧な遺言を仕上げるのは、難しいです。

 

まずはシンプルな形を確認し、それから事情に応じ、調べていくのが望ましいと思えます。(理想は、専門家に相談して公正証書遺言で作成することなのです)

 

 

正しい遺言書の書き方、改正民法を踏まえた新しい自筆証書遺言のための仕組みとは?

ここ数年の終活ブームで、遺言書を書いておこうという方も少なくないと思います。

 

厳密にいえば、専門家を通して、公証人役場で「公正証書遺言」を作成するのが理想的ですが、全体の費用で十数万円~数十万円は見込んでおく必要があります。

 

そこで、自分で遺言書を作成しようという「自筆証書遺言」に取り組む人の話も聞くようになりました。

 

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専門家としては、遺言書の標記には厳密さが求められるので、本当は専門家に依頼し手もらった方が望ましいというのが本音です。

 

しかし、唯一、「ともかく簡単なものでいいから、ご夫婦二人でそれぞれ自筆証書遺言を作ってください!」と言いたくなるケースがあります。

 

それは、お子様(実子・戸籍上の養子)がいらっしゃらない、年配のご夫婦の場合です。

 

特に、双方のお父様・お母様がご健在であったり、夫婦のどちらかに兄弟姉妹がいるというパターンだと、前の記事の相続順位の話でも書きましたが、第二順位の父母、第三順位の兄弟姉妹に相続の権利が回ります。

 

ここで、ご両親なりご兄弟・姉妹が理解のある方であればいいのですが、往々にして兄弟姉妹の配偶者が口を出し、「法定相続分の遺産は相続させて」と言ってくるケースがあります。

 

兄弟姉妹は、遺留分がないので、遺言書で、「妻に○○を相続させる」「夫に○○を相続させる」という記載をしておけば、法律通りに兄弟姉妹に財産が相続されてしまうことを防ぐことができます。

 

この点だけは、遺言書の書き方の前にぜひ知っておいていただきたいと思います。

 

シンプルな自筆証書遺言の作り方

 

現在は、財産目録はパソコンで作成して良いこととなり、登記簿や通帳に関してもコピーで良いなど、今後法務局で原本の保管制度が始まるなど、自筆証書遺言の作成方式にも一部変更がありました。

 

ただ、よくこれを誤解して、「遺言書の本文までパソコンで作成してしまう」などのミスもあるので、遺言書そのものの作成はまだ手書きであることに注意が必要です。

 

シンプルな自筆証書遺言の文例

ご夫婦でお子様がいらっしゃらない、兄弟はいるという方に向けた自筆証書遺言の文例です。

まず、土地・家屋の全ての登記簿をお近くの法務局で取得してください。

 

そして、財産が多種多様であれば財産目録を作成、「財産目録に記載」と遺言書で標記してください。

 

遺言書そのものは手書きである必要があり、修正する際にも、訂正印の他に、何字削除、何字加入など付け加える必要があるため、間違えたら最初から書き直した方がよいでしょう。

 

【文例】

遺言書←遺言であると分かるように、最初に必ず遺言書とつける

 

一、遺言者は妻山田花子に次の財産を相続させる←必ず「相続させると言う表現で」

 

1 土地

  所在 東京都多摩市桜ヶ丘○丁目○番○号

  地目 宅地 

  地積291.36平方メートル

2 建物

  所在 東京都多摩市桜ヶ丘○丁目○番○号

  家屋番号○○○番 木造瓦葺2階建て居宅←法務局の登記内容通りに記載

  床面積 1階136平方メートル

      2階67平方メートル

 

二、遺言者は、妻山田花子に次の財産を相続させる

  ○○銀行○○支店 普通預金 口座番号1111111

  ○○銀行○○支店 定期預金 口座番号1234567

 

上記に記載のない財産については、全てを妻山田花子に相続させる(←財産の記載漏れ対策)

 

令和2年4月16日←遺言書の作成日

東京都多摩市桜ヶ丘○丁目○番○号

 

遺言者 山田太郎 印←実印+印鑑証明の添付であることが望ましい

 

このように全て手書きで書いた後、極力実印(認印でも良いとはされているが、実印が争いになりにくい)を押印、封筒に入れ封をして保管してください。

 

また、令和2年7月10日より開始される、法務局の自筆証書遺言書預かり制度を活用するのも非常に有効です。

メリットとしては、

  • 改ざんの可能性がほぼない
  • 家庭裁判所での検認が不要
  • 相続人の誰かが遺言書に関する証明書交付・遺言書閲覧を請求した場合、他の相続人にも遺言書が保管されていることの通知が行くので、特定の相続人が、遺言書が預けられていることを知らなかった、という問題が起こりにくい

などのメリットがあります。

 

下記の点に関して注意する必要があります。

 

  • 法務局が遺言書の内容をチェックするわけではないので、いざというときに開封したら、無効な様式の遺言であったという可能性がある
  • 法定相続人全員の同意があれば、遺言書以外の方法で相続を行うこともできる
  • 保管費用に3,900円、各種証明の閲覧・交付に800円~1,700円が必要
  • 法務局の中でも、主要な局に限られる

 

このような点、特に、「内容に間違いがあっても法務局に受理されてしまう可能性がある点」には注意し、自筆証書遺言の作成に当たっては、細心の注意を払い作成・記載ミス・押印忘れなど漏れがないかを繰り返し確認するようにしましょう。

 

そして、できることなら「取り急ぎ」としての自筆証書遺言を作成した後、専門家に相談し、より精度の高い遺言書、できれば公正証書遺言を作成することをおすすめします。

 

相続税の税務調査で、今知っておくべき事とは?

今回は相続税の税務調査について書きます。

 

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まず、税務署の税務調査でぜひ知っておいてほしいポイントをまず挙げましょう。

  • 税務調査は申告から1~3年後、落ち着いた頃にやってくる
  • よほど悪質ではない限り、電話での事前連絡がある
  • 理想は税理士に申告、税務調査対応をしてもらい、税務調査日に立ち会ってもらう
  • 資料・領収書・記録など相続に関することを、普段、そして相続発生時以後ともにきちんと記録する
  • 税務署は独自のシステムを持っており、全てお見通しと思い、嘘はつかない、また言わなくていいことは言わない

 

特に、四番目の「資料・領収書・記録」の存在は大切です。

 

家族や仲の良い親族内なら、口約束など書面にしなくても・・・、となりますが、税務調査は税務署という「第三者」が行う調査です。

 

この場合、書面が残っていないと、口頭の話だけでは「本当ですか?」と税務署の調査官に思われてしまいます。

 

また、税務署はKSK(国税総合管理システム)というネットワークを構築しており、全納税者の納税額・お金の流れなどを把握しており、ごまかしはききません。また、金融機関の残高・生命保険などの支払いに関しても、税務署の権限で、相続人に知らせることなく取得できます。

 

ただ、国税は、無申告・過少申告に対しては厳しいものの、逆に払いすぎているパターンに関しては、原則何も言ってくることはありません。納税者側がきちんとした根拠をもとに、払いすぎたことを説明する必要があります。

 

そのため、私が言うのも何ですが、判断に迷う場合こそ、納税での過少申告ミスをなくしたり、解釈の違いで必要以上に納税せずにすむよう、税理士にきちんと依頼した方が安心といえます。

 

上記のポイントを踏まえて、税務調査の実務的な流れを紹介していきましょう。

 

税務調査全体の流れは?

税務調査の基本的な流れは、下記の通りです。

  1. 税務署から事前連絡が来て日程調整、同時に税務署が依頼する資料(申告資料・被相続人・相続人の通帳一式やネットバンクの取引明細一式・相続人それぞれの認印など)を用意しておく
  2. 日程調整後、税務調査の日時を決め、被相続人の生前の住居にて相続人全員(重大な病気などやむを得ない場合は除く)が集まり、税理士に税務調査対応を依頼している場合は税理士も同席
  3. 概ね1日かけてヒアリング・通帳や家の中全体の調査、カレンダー・日記・各種記録・金庫内の確認など。場合によっては数回に分けて行われる場合もある
  4. 税務署の方で1ヶ月~1年程度調査、申告内容に修正点があれば修正申告を求められ、無申告加算税(5~20%)や過少申告加算税(10~15%)など追徴課税がされる、額が多く悪質な場合は重加算税(35~40%)や刑事告訴も。

 

怖いのが、相続発生後数年経過してから来るケースも多いため、既に相続したお金を使ってしまって追徴課税が払えない・・・、というケースです。

 

そのため、相続発生後概ね5年(相続税の事項は5年・悪質な場合は7年)は、調査が来ることを念頭に置くことが望ましいと言えます。

 

相続発生前の事前準備も大切

よほど「終活」を意識している人でない限り、だれも亡くなる、相続が発生するという前提の準備はしていません。

 

ですが、元気なうちに、いかに制度を活用し、法律に基づいた節税対策を行うかが重要となります。

 

様々な対策がありますが、それぞれの内容を具体的に挙げていくと時間がかかりますので、大まかな制度名をピックアップします。

 

  • 生命保険の活用(相続時の死亡保険金には法定相続人1人につき500万円までの非課税枠があるため)
  • 小規模宅地等特例(宅地の評価額をケースによっては80%減らせる)
  • 数千万=~億単位のまとまったお金がある場合、現金を不動産にすることで、資産の評価額を下げる
  • 子供が結婚している場合、家の後を継ぐ配偶者を養子にすることで、法定相続人の基礎控除が増やせる(ただし、1人まで。実子がいない場合は2人まで)
  • 暦年課税・相続時精算課税を活用する

など、様々な制度があります。ここに書き切れないくらい制度がありますので、詳しく制度を知りたい方は、後ほどおすすめする書籍に目を通してみてください。

 

もちろん一番の理想は、元気なときから税理士など専門家に相談し、準備を行うことですが、そこまで手間はかけたくないという場合は、できるだけ相続に関して新しい情報がアップデートされた書籍に目を通すことをお勧めします。

 

相続前・相続時に迷ったときに手に取るべき、お勧め本は?

 

書籍・ムック・新書など、相続関係の本は多くありますが、わかりやすさという点でいうと、「プロが教える!失敗しない相続・贈与のすべて 監修 相続サポートセンター(ベンチャーサポート税理士法人)」というムックが、年度ごとに更新されており、図表・イラストも多くわかりやすいと思います。

 

また、週刊ダイヤモンド・週刊東洋経済・プレジデントなど雑誌で相続特集の企画が組まれるケースも最近増えており、こちらも最新のトピックを盛り込んでいるため、おすすめです。

 

いずれにしても、相続に関しては数年前の本は役に立ちません。

 

必ず、最新の書籍なり、知識をアップデートしている専門家の力を借りるなりすることが必要です。

 

 

 

 

代襲相続人における基礎控除について掘り下げてみる

前回の記事では、基礎控除や相続税の計算について書きましたが、当記事では、「代襲相続人の基礎控除」について掘り下げていきたいと思います。

 

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そもそも、代襲相続人とは?

相続手続きの中で、普通の人に取ってややこしく感じられるのが、「代襲相続」という制度だと思います。

 

代襲相続とは、死亡・廃除などの理由で、相続権を失った人に代わり、相続人の孫が、他の相続人と同じ順位で相続人になるということです。

 

これがなぜややこしいかというと、法定相続人には、優先順位が定められているからです。

 

  • 優先順位に関係なく相続人 配偶者(夫・妻)
  • 第一順位 子供(胎児・養子・認知された非嫡出子も含む)
  • 第二順位 父母
  • 第三順位 兄弟姉妹

(なお、兄弟姉妹は、遺留分の対象外です)

この中で、配偶者と、第一順位に当たる人がいれば、その人たちだけで相続することとなり、いない場合に初めて第二順位の父母に相続が回り、さらに第三順位の人が相続する形となります。

 

しかし、この中で第一順位の子供は亡くなったけれども、その子供に孫・ひ孫がいるというケースだと、孫に対し相続権が回り、父母まで相続権が回ってくることはありません。

 

このため、相続人を考える上では、「被相続人が産まれてから亡くなるまでの一式の戸籍謄本を取得」し、念のため、非嫡出子や、離婚した前妻などとの子供・ひ孫・玄孫(やしゃご)、(それぞれ養子・非嫡出子も含む)がいないかを確認することが必要になります。

 

戸籍謄本は、被相続人の本籍地がある市区町村役場へ、窓口か郵送で取り寄せ、本籍地を移している場合は、本籍を移した市区町村役場へも請求する必要がある

戸籍謄本は、まず被相続人(亡くなった方)の本籍地の市区町村役場へ取り寄せます。

 

現在のご時世ですし、郵送で取り寄せるのが無難です。市民課などに確認し、必要書類と、必要額の定額小為替(ゆうちょ銀行で購入できます)、返信用封筒を封入し、請求します。

 

返信された戸籍謄本を確認し、本籍地を市区町村外へ移している場合は、その市区町村

役場へ、改めて本籍地変更後の戸籍謄本を請求する必要があります。

 

そのため、被相続人が本籍地を移した頻度が大きいほど、出生から死亡までをたどるのは大きな負担になります。

 

また、戸籍自体も、年代が古くなるにつれ、手書きの戸籍も増え、専門家でも読むのに一苦労するケースがあります。特に、大正4年から昭和22年までの、現在の形式になる前の戸籍は、非常に細かく、慎重に目を通す必要があります。

 

そのため、戸籍の解読に慣れた専門家に依頼することをできればお勧めします。

 

代襲相続人は、基礎控除の対象になる?そして、代襲相続で気をつけたい、時間が経ってからの遺留分減殺請求とは?

結論から言うと、代襲相続人も、前回述べた、法律で定められた相続人、つまり「法定相続人」に当たりますので、1人当たり600万円の基礎控除が加算されます。

 

改めての復習ですが、法定相続人となり、遺産を受け取る対象となる人が、基礎控除の加算対象になります。

 

仮に、代襲相続者との関係が悪く、代襲相続者が相続欠格や廃除などの手続きをされていない場合、きちんと遺言を作成しておかないと、法定相続分は代襲相続人にも渡ることとなりますし、代襲相続人は直系卑属(直接の子供・孫・ひ孫・玄孫)であるため、遺留分として法定相続分の半分を請求する、遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)というのができてしまいます。

 

遺留分減殺請求に関しては、相続開始後

  • 減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないとき
  • 相続開始から10年経過

した際に、権利が消滅します。

 

逆に言うと、9年経ってから代襲相続者が現れ、遺留分減殺請求を行った場合、これまでの相続手続きを全てやり直すことになってしまいます。

 

もちろん、このようなケースは実例として極めて少ないと思いますが、万一数年なり8,9年経過してから遺留分減殺請求のような事態が発生した場合、全ての手続きをやり直すこととなりかねません。

 

上記のような負担を防ぐには、被相続人が遺言を作成する、既に代襲相続人がいて、その相続人の行動が目に余る場合は、相続対象としないよう「廃除」する手続きを家庭裁判所に行うこととなります。

 

ただし、廃除に関しては、よほどの事情がない限り認められないというのが実情です。

 

そのため、遺留分減殺請求分ほどは代襲相続者に遺し、あとは他の人に相続させるという形が無難ではないかと思います。

 

また、遺言書を作成し、本来は相続させたくないが、最低限の相続はさせること、なぜそのような措置を取ったかも含め、遺言書に盛り込んでおくのも一つの方法といえましょう。

 

世代を問わず、多くの人が法律情報にアクセスできるようになったことで、「遺産は相続しないといわれても、遺留分減殺請求の制度を使えば、法定相続分の半分は請求できるんだぜ」というような、自分に都合の良い情報を集めやすい世の中になっています。

 

確かに、権利の上に眠る者は保護に値するという法格言もありますので、遺留分、つまり自分が最低限もらえる分について主張することは、法律上は何ら悪いことではありません。

 

特に地方や昔からの家の場合、何かと穏便に話を進めるケースが多いですが、現在は価値観も多用し、権利を主張するということに対し、抵抗感もなくなっています。

 

相続発生時や遺言書作成の際には、代襲相続者の存在や遺留分減殺請求の可能性などにも、是非目を向けて欲しいと感じます。

 

 

相続税の法改正を踏まえた、基礎控除と相続税の計算について

相続に関して多くの方が心配される点が、「うちは相続税がかかるの?」という点です。2015年に相続税の改正があったため、都心・都下や名阪・地方都市などでも相続税の対象になるケースが増えました。

 

仕事柄、法人相手に相続のお話をすることが多いですが、今回は個人を対象に、できるだけかみくだいてご説明します。

 

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相続税の計算対象となる相続財産は?

一言で言うと、「相続する全ての財産」が相続税の計算対象です。

現金・預貯金・株券・債権・暗号資産(仮想通貨)・土地建物・貴金属や骨董・美術品・古銭・コレクションなどの資産価値があるものは、全て相続税の対象になります。

 

ただ、実務上は、

  • 知らなかったネットバンクの口座があった!
  • 素人では価値があると思いつかないような骨董品が倉から出てきた
  • 掛け軸が経済的価値のある美術品だった
  • メインバンクだけでなく、県外にへそくり的な銀行口座を作っており、それを忘れていた
  • 古銭や趣味で集めていたアンティーク品が、実は専門の鑑定士に見てもらうと、相当な価値がある物だった

こういうのはほんの一例ですが、意図せず資産にあたるものを報告できていなかった、ということも発生し得ます。

 

もちろん、わざとではないにしても、こういう申告漏れは後から修正申告の対象になります。口座・資産の見落としがないように気をつけることに加え、経済的価値があるもの、ありそうなものは、あらかじめピックアップしておき、税理士に相談するのがよいでしょう。

 

また、可能であれば郵便物・メール・パソコン・スマホなどをチェックするほか、ネット銀行の場合、6桁の数字を表示する「トークン」という小さな機械やカードがありますので、遺品がトークンが見つかれば、ネット銀行との取引があると見た方がよいでしょう。

 

意外ではあるが、相続が発生すると必ず相続税が発生・・・とは限らない

普段相続に関わることのない一般の方だと、「相続発生=相続税がかかる」というイメージを持つ方も時折おられます。

 

確かに、2015年の税制改正で、相続税の課税対象は広がりましたが、必ずしも相続が発生した家庭全てに相続税がかかるというわけではありません。

 

相続税というのは、「3,000万円の基礎控除」というのが存在します。これに加え、「相続人一人につき、プラス600万の基礎控除」というのも存在します。

 

例えば、被相続人(亡くなった方)に、奥様、お子様二人の3人の相続人がいる場合、

3,000万円に、相続人3人×600万円を足した、合計4,800万円が、「基礎控除の基本額」となります。

 

このように、相続する遺産全額に相続税がかかるのではなく、プラスの財産から、一定の控除や葬儀費用・債務などマイナスの財産を差し引いて残った部分に対して課税をするため、ケースによっては、相続税がかからないことも意外とあるのです。

 

課税対象となる遺産の総額を出してみよう

上記の点をふまえて、実際の課税対象になる遺産がいくらになるかをざっくりと計算してみましょう。

 

1.プラスの財産を算出する

遺産そのものの総額に加え、みなし相続財産(保険金・退職金など)、相続時精算課税の対象となる贈与を全て合計します。

 

2.マイナスの財産を差し引く

ここから、借金、いわゆる債務や葬儀費用を合計し、差し引きます。また、お布施は領収書をもらう性質の物ではありませんが、葬儀費用の対象となるので、支払先の寺社・金額・日時のメモを必ず記録しておきましょう。なお、香典は相続財産の対象とならない分、初七日の費用、法事の費用、香典返しも葬儀費用の対象となりません。

 

このマイナスを差し引いて出てきた物を、「正味相続財産」と言います。

 

3.3年以内の贈与を加え、実際の課税価格の合計額を算出する

正味相続財産に3年以内の贈与を合計した額(課税遺産相続)から、基礎控除分を差し引きます。

 

仮に課税遺産相続6,000万円、配偶者、子供2人の環境だと、6,000万円-4,800万円で1,200万円が課税遺産総額となります。

 

各相続人ごとの相続税額を算出する

上記の環境で法定相続通りに行くと、配偶者が2分の1の3,000万円相続、子供2人4分の1の1,500万円相続となります。ここから基礎控除の4,800万円を相続する比率に応じて差し引くと、配偶者600万円、子供2人400万円となります。

 

ここから、それぞれの法定相続人の取得価額に応じた超過累進税率(引用元:国税庁 No.4155 相続税の税率)をかけて、個々の法定相続人の事情に応じた控除を差し引きます。

 

法定相続分に応ずる取得金額

税率控除額

1,000万円以下→税率(以下同じ)0

3,000万円以下→15% 控除額 50万円

5,000万円以下→20% 控除額 200万円

1億円以下→30% 控除額 700万円

2億円以下→40% 控除額 1,700万円

3億円以下→45% 控除額 2,700万円

6億円以下→50% 控除額 4,200万円

6億円超→55% 控除額 7,200万円

 

このように、法定相続人一人一人に分けて計算しますので、法定相続人の数が多いほど、結果として課税額が抑えられるケースも想定できます。

 

ポイントは、法定相続人以外の他の人への相続は、相続税の計算に入らないということです。そのため、あくまで相続税の計算基準は、法定相続人をベースに行うということとなります。

 

また、配偶者に関しては、実際の取得金額が1億6,000万円、または法定相続分である場合は相続税は0となり、それを超える場合、差額部分に初めて相続税が発生することを承知しておく必要があります。

 

代襲相続人における基礎控除の話は、次の記事でもう少し詳しく説明しますね。

 

多くの方が、「相続税の計算ってややこしい・・」と思われたかもしれません。ただ、専門家は実務を通して、様々なノウハウや計算方法を体得しておりますので、相続のプロに相談することが、何かとスムースではないかと思います。