相続税の手続期限と、手続遅れのペナルティは?

相続税の基本的な手続期限についてまとめてみましょう。

 

まず、大原則として、「相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月」という定めがあります。

 

10ヶ月も期間があるとなると、時間的にも余裕があるように見えますが、実際の所は四十九日が終わった後から動き始める必要があります。

(本当は、四十九日前から動いても問題はないのですが、年配の方や伝統を重んじる方は、「四十九日も終わっていないのにお金の話をするとはけしからん!」という人もいる可能性は考えた方がよいでしょう。)

 

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相続税の準備は、四十九日が過ぎたら早めに始める

先ほども書いたとおり、相続税の手続は想定以上に時間がかかることが多いです。

 

なぜなら、書類の郵便による往復や各種調査、手続などで、10ヶ月(実質8ヶ月と10日)というのはあっという間に過ぎるからです。

 

また、相続税の申告と同時に、相続税の納付も行う必要があります。

 

これも法定期限は相続税申告と同じ10ヶ月で、相続税を納付しなければならない場合は、相続税の資金準備も必要になります。

 

加えて、相続税の延滞については、最初の2ヶ月は2.6%の延滞税、それを超えると8.9%の、かなり高い利率の加算税がかかります。

 

さらに、過少申告の場合は過少申告加算税が10%~15%、無申告加算税は15%~20%(申告期限内に申告をせず、その後納税者が自主申告をした場合は5%)がかかります。

 

さらに重いのは、「重加算税」で、申告書を提出したが、財産を隠していたり、事実を偽装した場合に35%、申告書を提出せず、財産を隠蔽した場合は40%の税金が課され、特に金額が大きい・悪質な場合は「刑事告発」という形で、逮捕・在宅起訴されたり、裁判に発展する可能性があります。(新聞沙汰になる可能性もあります)

 

このようなデメリットを考えると、相続財産の申告は、専門家に依頼して、正直に行うことが大変重要です。

 

相続税の延納や分割納付などについても、基本的に税理士を通して、税務署に「支払いたいがこのような事情で今すぐの工面はできない、少し待って欲しい」など相談することで、税務署もある程度は配慮してくれる可能性が出てきます。

 

一番問題なのが、対応しない、無視するなどの行動です。

 

国も誠実に申告・納税を行おうとする人に対しては丁寧に対応してくれますが、不誠実な対応・納税回避の姿勢を取るなどすると、非常に厳しい対応を取られる恐れが高まります。

 

納税だけでなく、国・地方自治体相手のことは何ごとも正直に対応するのが一番です。

 

おそらくバレないだろう、ということはなく、国は様々な調査権限を持っていますので、「バレないだろう」は通用しないと考えた方がよいでしょう。

 

税理士の先輩の話でも、「国は様々なお金の動きを把握しているし、何か大きな収入・支出があると、すぐお尋ねが来るくらい、様々なことを把握しているから、正直が一番だよ」という話をされます。

 

また、条件は厳しい場合もありますが、金銭での納付がどうしても難しい場合は、「物納」という方法もあります。

 

お金の代わりに土地家屋を納める、という方法で、必ずしも全てのケースで認められる訳ではありません。

 

金銭でできるだけ納付しようとしたけど、どうしても難しいという場合に、物納という条件を呑んでくれる可能性もありますが、これに関しても個人から依頼するより税理士に依頼した方がスムースと言えます。

 

このように、相続税申告は、時間があるように見えて、実はやることが多く、税金も一緒に納めないといけない、複雑な手続なのです。

 

ですので、四十九日が過ぎたら、ある程度の財産がある家庭は、税理士に相談し、相続対策の準備を先手先手で進めていくことをおすすめします。

 

相続の相談は、誰にするべきか?

相続が発生したとき、「誰に相談すれば良いのか」というのは多くの方が迷われるケースだと思います。

 

個人的な結論から言うと、

「相続税が発生するほどの財産はおそらくない」→税務署に相談

「相続税が発生するか微妙、もしくは相続税が発生する」→税理士に相談

という形がおすすめです。

 

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なぜ、税務署・税理士に相談した方が良いのか?

相続財産の多い少ないにかかわらず、税務署に相談するなり、税理士に相談し判断をしてもらうと言うことは重要です。

 

相続税がかかるほどの財産ではないから・・、と自己判断し、税務署・税理士に相談せずにいて、税務署から「お尋ね」が来ると大変な事になります。

 

税務署からのお尋ねは、数年経過してからということもあるので、相続したお金をある程度使った後に、お尋ねの後の税務調査、追徴課税などがあると、税金が払えないという可能性も出てきます。

 

ですが、相続発生時に、税務署に相談し、相談の履歴・担当者を記録しておけば、「きちんと相続発生時に相談しました」ということが言えますので、税務調査で大きく不利になることを防げる可能性が高くなります。

 

加えて、相続税がおそらくかかるケースや、確実にかかるケースの場合、「いかにして評価を減らすか、節税するか」ということは、税理士でないと答えてくれにくい側面があります。

 

税務署は、税金を適切に徴収することが仕事ですので、節税のアイデアなどを提供してくれるとは限りません。

 

しかし税理士であれば、「法律に基づいた上での適切な節税」に関しては、積極的に考えてくれます。(理想は、相続が発生する前から相談し、事前に様々な対策をしておくことですが・・・)

 

そのため、ある程度相続税がかかりそうだな、という場合は、始めから税理士に相談するのがスムースです。

 

ここで、「じゃあどんな税理士に相談すればいいの?」という意見が出てくると思います。

 

  • 相続税申告、相談の取り扱い実績が多い事務所を選ぶ
  • 地元の税理士会・税理士会支部に問い合わせ、相続に通じた税理士を紹介してもらう
  • 地元に顔の利く税理士に、誰かからの紹介で依頼する

 

まず、1番目については、やはり相続を取り扱う数が多いほど実績を蓄積しているという可能性が高いので、シンプルにお勧めできます。

 

2番目については、地元の税理士会・税理士会支部は、地域の税理士で誰が相続・相続税申告に通じているかを把握しているケースが多いので、相続に通じた税理士を紹介してもらいやすくなります。

 

3番目に関しては、特に地方に行けば行くほど、地域の事情(裏事情も含め)を深く知っている税理士の方が、申告の際もいろいろ配慮してくれることが想定できます。(ただ、これに関しては地域によりかなり異なりますが、昔ながらの「地域の名士である税理士」が存在する地区というのもまだうっすらと存在します。

 

相談してはいけない相手は?

では、逆に相続の相談をしてはいけない相手とは誰でしょうか。

 

  • 配偶者など身内(意見・要望は聞くが、相談はしない)
  • 少し相続に詳しい程度の知り合い

このような、感情が入るケースや、中途半端に知識がある人に相談することは危険です。

 

特に相続税申告では、実際に申告や税務調査に対応した人でなければわからないノウハウや体感知などが存在します。

 

いくら法律に詳しい、相続に詳しい知り合いであっても、税理士資格を持たない、実務経験のない人の意見を鵜呑みにすると、痛い目に遭う可能性もあります。

 

例えば、「ちょっと相続に詳しい」と自称する友人に相談して、「あ、これなら相続税払わなくていいし、税務署に言う必要もないよ」と言われて、後で「相続に関するお尋ね」がきて、結局相続税を支払うことになったとしても、友人が責任を取ってくれるわけではありません。

 

ですので、相続の相談は、実務に通じた専門家である税理士に行うことをおすすめします。

 

 

 

 

 

 

相続には二世帯同居が得と聞くけど、具体的にはどう得なの?小規模宅地等の特例のはなし

ハウスメーカーの二世帯住宅の広告や、雑誌・書籍などで「二世帯住宅だと、相続税が減らせてお得!」などのキャッチコピーをたまに見ることがあります。

 

確かに、一定の条件を満たすと、相続がお得になりますが、条件がけっこう複雑です。

 

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小規模宅地等の特例を使うと、評価額が条件付きで最大80%減になる

まず始めに書いておくと、小規模宅地等の特例というのは、けっこうややこしい側面があります。

 

個別具体例は、税理士などの専門家に相談して下さい、という前置きを書いたうえで、原則的な話をしていきます。

 

都市部や地方都市などは、宅地や建物の評価額が数千万・億を超えるものというのがざらにありますよね。

 

そういう評価額の高い土地家屋にそのまま課税をしたら、相続税が高くなるので、一定の面積・要件など含めて条件に当てはまる土地に対し、評価額を減らそうというのが小規模宅地等の特例です。

 

具体的には、

  • 80%減額→特定事業用宅地または特定居住用宅地に該当する小規模宅地
  • 50%減額→貸付事業用宅地に該当する小規模宅地

さらに、宅地の面積には限度があり、

  • 特定事業用宅地→400平方メートル
  • 特定居住用宅地→330平方メートル
  • 貸付事業用宅地→200平方メートル

上記までの部分が減額対象です。

 

注意したいのは、仮に特定居住用宅地が500平方メートルだったら適用されないというわけではなく、500-330=170平方メートル部分が適用されず、残りの330平方メートルに減額が適用されるということです。

 

いろいろ難しい言葉が出てきて混乱するかもしれませんが、今回の二世帯同居の場合で対象になるのは、特定居住用宅地のケースです。

 

特定居住用宅地とみなされるためには、一定の条件を満たす必要があります。

4パターンありますが、二世帯同居のケースで関わりがあるのは、次の2つでしょう。

 

  • 被相続人の奥さん・だんなさんが居住用宅地を相続したケース
  • 宅地を相続した相続人が、相続開始前より被相続人と同居、相続開始時から相続税申告期限まで宅地を所有、その後も続けて住むケース

 

この「同居」の定義・機関については、税理士に「自分の場合は特例対象になりますか」と確認する方がよいでしょう。

 

いずれにしても、同居しているかしていないかで、宅地の評価額が80%も変わってくるというのは大きいです。

 

ちなみに、以前は二世帯住宅でも、建物で行き来できない構造は小規模宅地等特例の対象外でしたが、現在は玄関・キッチンなど全てが別々のケースでも、小規模宅地等特例の対象となるようになりました。

 

ただ注意点として、二世帯同居となっていても、親の住む部分と子の住む部分が、別々に登記(例えば、1階は親の名義、2階は子の名義)されていると適用の対象外となってしまいます。

 

よくありがちなのが、一緒に住んでいるから大丈夫、と思って登記簿を調べてみると、建物内で名義が違っていて、結局小規模宅地等特例の対象外になり、80%評価減がなくなってしまった・・・というケースです。

 

この点は早めにご自身で自宅の登記簿謄本を確認(もしくは、法務局で最新の登記事項証明を取得)、どのように登記されているかを確認した方がよいでしょう。

 

確かに同居は大変な側面もありますが、生活費の節約や、子どもの世話を気軽にお願いしやすい、生計が一緒なので光熱費の負担も減りやすい、公共放送や電話などの設備も1つで済むなど、様々な面で節約できます。

 

多少気を遣うところがあるかもしれませんが、相続や生活で得られるメリットを考えると、二世帯同居を選ばないのは非常にもったいないと言えます。

 

ぜひ、今後家を建てる、親と同居する、二世帯住宅を建築する等の場合、小規模宅地等特例をハウスメーカーや税理士などの専門家に確認することをおすすめします。

 

 

 

相続でお金が引き出せない!そんなときに、平成30年7月から始まった遺産分割前の預貯金の仮払い制度を使おう

正式な相談ではなく、知り合いづてで「ちょっと聞きたいんだけど・・」と意外と相談を受けるのが、「相続が発生したけどお金が引き出せなくなった」という事態です。

 

特に多いのが、相続人の大半が都会や実家と異なるところに住んでおり、直接金融機関まで赴く時間が取れないというケース。

 

また、口座引き出しが制限されるケースとしては、地方銀行・信金・信組・JAバンクなど、地域密着型の金融機関が多いです。

 

上記のような金融機関というのは、地元紙の「お悔やみ欄」というのをよくチェックしています。

 

お悔やみ欄に利用者の氏名が載っていると、地域密着の金融機関はその口座を凍結するケースが非常に多いです。

 

なぜなら、相続が発生してから、特定の相続人が遺産の大半を引き出すと、「金融機関は何をしていたんだ」とクレーム・責任を問われるケースもありうるからです。

 

ただ、相続人の側としては、いざという時にお金を引き出せないのは大変です。

 

このような事態は以前から課題となっており、平成30年7月から、遺産分割前の預貯金の仮払い制度が始まっています。

 

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遺産分割前の預貯金の仮払い制度とは?

遺産分割が成立する前であっても、相続人が個別に申し立てて、一定額の預金を払い戻しできる制度があります。

 

  • 上限は1金融機関・相続人1人につき150万円ごと(複数の金融機関であればそれぞれ150万円ごと)が上限
  • 相続開始時の預貯金の額×3分の1×相続人の法定相続分

以上が基準となります。

 

ただし、手続を行うには金融機関の求める書類の用意が必要です。

 

多くのケースで用意することが求められる書類は、

  • 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明
  • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明
  • 預貯金の払い戻しを行う者の印鑑証明書・書類への実印の押印

となります。

 

相続人全員の戸籍謄本は、様々な事情で用意が難しいケースもあるでしょう。

 

その場合、金融機関に事情を説明し、何か代替手段はないかを確認しておくと良いです。

 

口座が運良く凍結されていなかったとしても、あくまで他の相続人への説明を

金融機関によっては、相続が発生しても、その事情を知らない、相続人から届出がないなどの理由で、口座が凍結されていないケースもあります。

 

ただ、その場合でも勝手に必要以上のお金を口座から引き出すと、後でもめることにもなりかねません。

 

引き出しを行う場合は、葬儀費用や引き出した理由をノートなどに記録し、何にどれくらいお金を使ったか説明できるようにしておくことが重要です。

 

相続トラブルの原因の一つとして、「特定の相続人が勝手に必要以上のお金を引き出し、使途が不透明」というケースがあります。

 

相続財産は、正式な遺産分割手続を終えるまでは、相続人全員の共有財産であると言えます。

 

その財産について、他の相続人に断りもなく使ってしまうと、他の相続人としても不快な気分になりかねません。

 

最初にきちんと理由を話しておけば納得が得られる可能性があるケースでも、何らかの手続を「勝手に行われた」ということになれば、どんな人でもいい気分はしない、もしくは露骨に怒るでしょう。

 

相続人という、血縁関係などのある立場だからこそ、他人と違って遠慮がありません。

 

相続が泥沼化しないためにも、引き出す際には、極力他の相続人に、「このような理由で引き出す」ということを伝えるべきです。

 

ここまでで述べたケース以外でも、相続において「感情」が絡む問題は想像以上にあります。

 

たまにドラマで相続の話が出ると、「お金の問題じゃない、気持ちの問題なんだ」という言葉などが出ることがありますが、あれはある意味真実というケースも多いのです。

 

相続手続においては、「法律で決まっているからこの通りに」と押し通そうとすると、ほぼ確実に反発されます。

 

各方面に配慮する、顔を立てるということをしないと、相続で小銭をもらっても、その後大きな禍根を残すことになりかねませんので、注意することをおすすめします。

 

 

相続で話がまとまらない場合、どこに相談した方が良いか?

相続に関して、遺言書が存在するかどうか等にかかわらず、「相続人間で話がまとまならない」という事態というのは意外とあるものです。

 

正直、法律通りにそのまま分けることが、建前の上では一番無難です。

 

しかし、相続は教科書通りに行くものではないのが実情です。

 

相続人間は非常に近い間柄であることが多く、何十年前の事を持ち出してもめることがあります。

 

逆に、ほぼ面識のない親族が相続人に該当し、「どんな事情があっても法定相続分は現金で出さないと、ハンコは押しません」という可能性もあります。

 

さらには、相続人の配偶者(つまり夫・妻)など、直接関わる人ではない人が口を出すこともありえます。

 

このように、相続で話がまとまらない場合の方策や相談先などに関して、個人的な見解ではありますが、書いていきたいと思います。

 

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相続は感情の問題と結びついている

特に親子・兄弟など親族間の相続にありがちな問題ですが、様々な金銭と感情が絡まったもめ事が起こることがあります。

 

例えば、兄弟姉妹間で「自分は親にこれだけしかして貰えなかった」とか、「自分は親の後を継ぐために田舎に残り、人生の選択肢の幅が圧倒的に狭くなってしまった」、「自分がこれだけ介護に尽くしてきたのにこれだけしか貰えないのは不公平」「夫・妻などが『せめて法定相続分はしっかりと貰いなさいよ』と口を出してくる」など、これまでの恨み辛みが一気に吹き出してくる感じでしょうか。

 

しかも、もめるケースは、相続人の財産の有無にかかわらず発生しがちです。特に相続人にお金がない場合や執着がある場合、言葉は悪いですが、「少しでも多くの財産を相続してやろう」と余計にこじらせようとしています。

 

しかし、相続は相続、感情は感情、これまでしてきたことは過去の事として、誰もが譲歩の気持ちを持たないと、話はまとまらないでしょう。

 

きれい事だけではこじれた相続は処理できない

ただ、先ほどのように「譲り合いの精神を持ちましょう」というきれい事ばかりを話しても、「そんなの関係ない!」と我を押し通す相続人が一人でもいれば話はまとまりません。

 

この場合、相続人同士としては絶縁関係に近い結果になる恐れもありますが、弁護士をつけた上で、家庭裁判所を通して、協議・調停を行うのも手でしょう。

 

法定相続人の誰かが遺産分割に強い異議をとなえているという場合は、弁護士に相談し、

  • 弁護士立ち会いのもとで再度話し合いの機会を持つ
  • 相続人が話し合いを拒む場合は、弁護士に最適な対応を仰ぎ、判断してもらう
  • 家庭裁判所の協議・調停に入る
  • それでもまとまらなければ審判を行う

という形で、弁護士・家庭裁判所の介入する形で話し合いを進めていく方が良いといえましょう。

 

一般の人が書籍を見ながら見よう見まねでやろうとすると、かえって争いになった際、自分に不利になる行動をしてしまったり、相手の怒りに火を注いでしまうこともありえます。

 

そのため、あくまで法律に精通した第三者を立てて、ある種粛々と手続きを進めることが重要と言えましょう。

 

協議・調停はあくまで裁判所を交えた話し合い、審判は裁判所を交えたジャッジ

遺産分割で家庭裁判所を通す際、初期段階の協議・調停の結果はあくまで、話し合いを踏まえた「こうした方がいいのでは?」という裁判所からの提案に近いものと考えた方が良いでしょう。

 

ここから次へ進む「審判」の場合は、家庭裁判所の裁判官がより踏み込んで判断を行い、「審判」がなされます。

 

ただ、裁判所側としても、「審判」という最終結論を出すよりも、できるだけ協議・和解など比較的穏やか形で判断を出すことを志向しています。

 

また、協議・調停から審判まで進むと、弁護士費用や時間なども相当かかる可能性があります。(費用に関しては、各弁護士により異なりますが、成功報酬などの形を取っている弁護士も多く、数十万~百万近くの費用はかかる可能性、また長引くほど費用も高くなる可能性を視野に入れておいた方がいいでしょう。)

 

そのため、争いになる場合でも、できることなら初期の段階で結論を出せることがベターと言えます。

 

あくまで家庭裁判所や弁護士の活用は最終手段と考え、できるだけ相続人間で話し合いを完結できた方が、時間・お金・そして相続人間の関係のこじれなど様々な問題を避けることができると言えましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相続で悩みとなる、空き家処分の話

相続が発生した際に、亡くなった親(親族)の家があるが、もう誰も住んでいないという、いわゆる「空き家」状態になった際、どのように対処するかと言う問題があります。

 

特に、相続人が全員県外に出ており、誰も家を必要としない場合は、空き家のままにして管理を行うか、処分を行うかという話になります。

 

今回はこの「空き家問題」に関して書いていきます。

 

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空き家を残すか、処分するか?

相続が発生した際に、空き家になる家が相続財産に含まれる場合、誰が相続するかを考える必要があります。

 

また、空き家を売却した場合、どれくらいの値段が付くのかについても、事前に不動産業者に相談しておくことが望ましいと言えます。

 

土地家屋の固定資産課税台帳に書かれた土地家屋の価額で、土地・建物を売却できるケースは、よほどの好立地や好条件でない限りはあり得ないでしょう。

 

特に、地方に行けば行くほど、どの不動産業者も買い取らない、「タダでも誰もほしがらない土地家屋」というのは増えます。

 

特に、築年数が経過している、駅から遠い(車が必要)、下水道が整備されていない、手入れにお金がかかるなど、田舎になればなるほど、負の価値を持つ「負動産」が増えます。

 

誰も地元にいないのに、不動産を相続する意味はあるのか?

誰も地元に住んでいない場合、よほど家に思い入れがない限り、処分や空き家の解体など、相続する不動産の出口戦略も含め考えておくことが望ましいでしょう。

 

出口戦略としては、不動産が「売却できるか否か」で大きく異なります。

 

もし、不動産が買い手の付く物件であれば、売却できるうちに処分してしまった方が良いでしょう。

 

今後、日本の人口が大きく減少し、都市や地方都市などに人口が集約されることが明らかな現在では、「不動産は値段が付くうちが花」といえます。

 

値段が付かないのであれば、不動産を地方自治体に寄付すればいいのでは、と考える方もおられるかもしれません。

 

しかし、「地方自治体が土地の寄付を受け付ける」というのは、極めてレアなケースと言えます。

 

文化的な価値があるなど、よほどの特殊な住宅・建物でないと、自治体としても土地・建物だけを寄付されても扱いに困りますので、まず受け付けてもらないと見ておいた方が良いです。

 

不動産の管理・処分には相当な労力がかかる

利用する可能性がない不動産については、財産とみなすよりも、むしろ管理・処分にかかる手間賃も含め、相続する人に「管理・処分代」的な形で渡すのが一つの理想と言えます。

 

特に、異なる都道府県から、実家の不動産を何度も往復するのは、交通費・労力とも大きな負担となります。

 

そして、2020年現在続くコロナ禍が落ち着くまでは、いろいろな意味で物理的な往復は難しいでしょう。

 

売却、老朽化が激しい場合は解体と整地、お墓がある場合は墓の整備、場合によっては墓の撤去による離檀料の支払いなど、率直に言って誰も住まない土地家屋は、「けして引き受けたくない厄介者」でしかないというのが率直なところです。

 

遺言書を作成する場合は、自宅をどうしたいかと、自宅を相続する相続人に対する配慮を

現代においては、地元に住み続ける事でもない限り、「家を受け継ぐ」という意識は消失していると言うことを強く認識する必要があります。

 

都市部に生活基盤ができている子どもたちに対し、家を継ぐために戻ってというのは、現代においては親の見栄とわがままでしかありません。

 

特に、田舎で仕事が失われていく現在、家族全員がフルリモートで仕事をでき、子どもたちも田舎に関心を持っているなど、よほどの条件がない限り、家を継ぐことは、相続人に対し負担でしかありません。

 

お墓参り等もそうです。

 

自宅を誰かに相続させる場合は、ぜひ、家の管理・処分にかかる費用も上乗せして相続させるよう、配慮することが重要と言えましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相続が発生した場合、どんなときにどんな専門家を頼ればいい?

相続でよく聞かれることととして、「相続についていろいろ悩みがあるんだけど、誰に相談していいかわからない」という話を聞くことがあります。

 

確かに、広告などで「相続手続のお手伝いをします」という宣伝なども見かけます。

 

ただ、状況や困りごとに応じて、どこに頼むか、どんな専門家へ依頼するかというのはよく考える必要があります。

 

今回は、相続に関わる専門家と、どういう時に依頼をすればいいのかについて述べていきたいと思います。

 

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土地家屋などの名義変更が発生する場合は司法書士に依頼

多くのケースでは、現金・預金などだけでなく、土地家屋の相続も行うことがあるかと思います。

 

土地や家屋の名義変更を行う上では、「司法書士」に手続きを依頼する必要があります。(相続人が行うことも不可能ではないですが、手間がかかります)

 

相続人間で特にもめることもなく、現預金も少ない、地方なので土地・家屋の相続税もかからないという場合は、司法書士に名義変更を依頼する事が望ましいでしょう。

 

相続税の発生が想定されるケースなどでは税理士に依頼

少し前までは、相続税の計算基準が5,000万円+1,000万円×法定相続人の数だったため、ある程度の資産がある家庭が相続税の対象となっていました。

 

しかし現在は、相続税の基礎控除額3,000万円+600万円×法定相続人の数となっています。最低でも6,000万円だった相続税のかかる基準が、最低でも3,600万円とかなり引き下げられました。

 

一定の財産があったり、首都圏や地方都市に自宅などがある場合は、多くのケースで相続税の対象となる可能性があると考えた方がよいでしょう。

 

相続税の計算については、非常に慎重さを要する手続きです。手続きや書類作成・記載内容に漏れがあると、後でトラブルの原因になります。

 

また、骨董品やコレクションなど「これは申告しないでも良いだろう」と、相続人が主観的な判断で考えると、申告漏れなどトラブルに繋がる場合もあります。

 

税理士事務所・税理士法人の場合、多くの相続のケースを手がけていますので、相続において申告すべき事や相続税の計算、手続き、「非課税財産」という申告しなくてもよい財産など、様々な観点から、「適切な相続税の申告」をサポートしてくれます。

 

特に財産面で、相続税の課税対象になるかどうかが微妙な場合は、税理士に事前相談し、「相続税がかかる可能性がある」「相続税がかかる」というケースの場合には、相続税申告手続きの代行をお願いする事が大切です。

 

また、税理士事務所・税理士法人の場合、他の専門家とのネットワークも充実しています。

 

後ほど述べる相続手続きの代行業者と同様、相続全体の窓口として、相続税以外の手続きをまとめて行ってくれる事務所も存在します。

 

相続人間で争いがある場合は弁護士

相続の割合や遺言書の内容に納得しない相続人がいるケースなどは、弁護士に依頼することを視野に入れる必要があります。

 

財産分与の割合などに関しては、相続人同士で話しても、いろいろな感情などもまじってまとまらないケースも想定されます。

 

まず弁護士を代理人として立てて、納得しない相続人と交渉します。

それでも相続人が納得しなければ、

  1. 家庭裁判所を通した遺産分割調停手続
  2. 家庭裁判所での遺産分割審判の申立

という形で手続きが進んでいくことになります。

 

いずれにせよ、弁護士費用も含め、手続きが増えるほど時間とコストがかかりますので、一定の妥協点を設けておくことが望ましいと言えます。

 

相続代行手続きを行う会社・事務所・信託銀行

相続手続きの代行を行う会社や事務所も、近年は増えてきました。

 

相続にかかるサービスをワンストップで行ってくれるのが強みです。必要に応じて、税理士・司法書士などの専門家へ手続きを依頼したりしてくれるので、一度お任せすれば、後は指示に従って書類を集めるだけと言う形で、手続きの簡略化を図ってくれます。

 

ただし、費用に幅があることと、代行を依頼する事業者が、様々な意味で信頼できるかは念頭に置いた方がよいでしょう。

 

以上、相続手続きに関与する専門家・事業者などについてまとめました。

 

相続手続きは、複雑かつセンシティブな内容を扱うものです。依頼先に関しては、最初の相談などでしっかりと話を聞き、信頼できるかを含めて考えていく必要があると言えましょう。

この人には相続させたくないという親族を、相続人から廃除できるのか?

今回も相続トラブル系の話です。

 

親などの立場で、「こいつには相続させたくない!」という人がいるケースもあるかもしれません。

 

こういう場合、「相続廃除」という制度があるにはあるのですが、非常に条件が厳しいと言われています。

 

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被相続人を相続から廃除する条件と相続欠格事由

 

民法892条・推定相続人の廃除では、

  • 被相続人に対して虐待
  • 被相続人に重大な侮辱を加えた
  • 推定相続人に著しい非行

というどれかの条件があれば、被相続人を相続から廃除、遺留分の請求も認めませんよ、という運用をしています。

 

また、相続欠格事由というのも存在し、

  • 被相続人や、自分より相続で優先度の高い人物を殺害したり、殺害しようとした場合
  • 詐欺や強迫で、被相続人の遺言を取り消させたり、遺言書を偽造・変造・破棄の他、隠すなどした場合

など、被相続人として著しく不適切な行為を行った場合も、相続人から外されることとなります。

 

遺留分の請求も認めないというのは相当重い措置です。

 

普通は遺言書で、「○○には相続させない」と書いてあったとしても、子ども等(子どもがいない場合は親。兄弟姉妹は遺留分の請求権を有しない)の被相続人は、遺留分として、一定割合の金額を請求する権利があります。

 

しかし、相続から廃除されると、その遺留分の請求も認められず、完全に相続できる金額が0となります。(推定相続人から廃除された人物に子どもがいる場合は、代襲相続という形で子どもの方は遺留分の請求権を有します)

 

相続廃除には、「この人はよほどひどい人です」という人物であり、行状を客観的に立証できないと廃除できない

相続廃除は家庭裁判所に申し出ることになりますが、申し出の上で、具体的な廃除の理由を詳細に示す必要があります。(遺言で相続人廃除の申立をする事も可能です)

 

裁判所も、相続廃除の手続きに関しては、非常に慎重な判断を行うため、実際に相続廃除にまで至るケースというのは、さほど多くありません。

 

廃除の理由としては、

  • 被相続人自身を身体的・精神的に虐待した
  • 被相続人の財産に関して勝手に処分した
  • 様々な暴力行為などがあった
  • 重大な犯罪行為を行った、重い有罪判決を受けた
  • 被相続人の配偶者が、婚姻を継続しがたい問題ある行為を行った

など、身体・精神・金銭面で被相続人に著しい被害を与えるケースであって、はじめて廃除が認められます。

 

その際も、いつ、どこで、具体的にどのような行為を受けたかなど説明しないと行けず、なかなか一般の人が手続きをするのは難しいと思います。

 

弁護士に相談して、手続きをしてもらうことも可能ですし、普通に申請するよりは、認められる可能性も高くなりますが、実際の所は、専門家を使ってもかなりハードルが高いかなと思います。

 

それゆえ、もし特定の相続人を相続から廃除させたい場合は、ともかくされた問題のある事項の記録を、できるだけ残しましょう。

 

手書きでも、電子データでもいいですが、できるだけ、いつ、どのような行為をされたかなど、できる限りの証拠を集め、残しておくことが重要です。

 

現実的な落とし所としては、遺言で「相続させない」としつつ、遺留分の請求権がある場合は、遺留分は遺留分減殺請求に備え、確保しておく

このように、相続人の廃除は簡単ではありません。

 

生前に問題のある相続人の廃除請求をしておくか、遺言書で相続人廃除の事と、問題ある相続人には財産を相続させない旨書くなどし、「うまく行けば問題のある相続人の相続0、最悪でも、遺留分の請求(なお、別の記事でも書きましたが、遺留分があるのは子・孫などの直系卑属、子がいなければ第二順位の親などの直系尊属のみで、兄弟姉妹には遺留分はありません)をされるだけにとどめるよう、工夫した方が良いでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相続トラブルでたまに聞く、相続人が遺言書を破棄・隠した場合どうなる?

今回も相続トラブルの話です。

 

私は関わったことがありませんが、もし相続人の誰かが、遺言書を見て、「これは俺にとって不利に書かれている遺言書で許せん!!シュレッダーにかけてやる」などと、遺言書を勝手に処分する、というトラブルが発生したらどうなるか、という話です。

 

(なお、下の画像に突っ込みを入れておくと、財産目録など一部以外の多くの部分の自筆証書遺言は、ワープロ作成ではダメで手書きの必要があります

 

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遺言書を勝手に破棄・隠匿(隠すこと)は当然犯罪で民事上・刑事上の責任も。そして相続人から廃除されることも!

普通に考えると想像が付くことですが、遺言書を破棄したり、偽造・変造を行う、また遺言書作成の過程で、相続人の誰かが被相続人を強迫などして、本人の意思とは異なる遺言を作成させるなど行うと、相続人として不適格となる、いわゆる「相続欠格事由」に該当し、相続人となることはできません。

 

ただし、本人が相続欠格者となった場合でも、その相続欠格者に子どもがいた場合、代襲相続という形で、悪いことをした人には相続権がないけれども、子どもには相続権が発生する・・・という、なんとも言いがたい状態になります。

 

また、遺言書を偽造・変造したり隠匿(隠す)ことによって、他の相続人など関係者に損害を与えた場合は、偽造・変造・隠匿などを行った人は、被害者から民事で損害賠償責任請求を受ける可能性があります。

 

また、当然ですが刑事上の責任もあり、偽造であれば、刑法159条1項の私文書偽造罪で5年以下の懲役刑、変造も刑法159条2項で同じ5年以下の懲役刑となっています。

 

また、書類の破棄の場合は私用文書毀棄罪で5年以下の懲役刑となります。

 

私用文書の毀損・書類破棄に関しては、「親告罪」となっており、告訴ができるのは、被害者・被害者の法定代理人、その他つながりの強い親族などに限られます。もし遺言書の破棄などがあった場合は、利害関係者が申し出る必要があります。

 

自筆証書遺言の偽造・変造・破棄がされていた場合の対策は?

遺言書に手を加えてしまうとなると、完全に弁護士の先生が関与する必要のある案件です。

 

早急に弁護士に相談し、調停や、偽造などに関する訴えを提起するなど、対策を行う必要があります。

 

ただ、自筆証書遺言の偽造・変造・破棄などを追求するには、それ相応の根拠が必要です。立証に関しては、弁護士にも相談しながら慎重に進めて行くべきでしょう。

 

これからであれば、自筆証書遺言の偽造・変造・破棄などを防ぐためにも、法務局の遺言保管制度を、親などに利用してもらうようにするのが望ましいでしょう。

 

法務局での自筆証書遺言の保管は、費用も3.900円とさほどかからず、後から新しい遺言書と差し替える手続きも可能です。(その際は別途手数料はかかります)

 

公正証書遺言の場合は、遺言書自体が破棄されても、原本の写しを公証人役場で取得できる

上記のように、自筆証書遺言だと、偽造・変造・破棄などの可能性もありますが、公正証書遺言の場合は、前の記事でも触れたように、公正証書遺言の原本が公証人役場に保管されています。

 

遺言作成者が保持しているのは、正本と謄本(正本のコピー)ですが、大本の書類である原本に関しては、公証人役場で調べることができますので、少しでも公正証書遺言に疑わしい部分(公正証書遺言なのに、なぜか書き換えられているなど)があれば、公証人役場に予約をして必要書類を持参、遺言検索を行い、公正証書遺言が存在する場合は、公証人役場で公正証書遺言の写しを取得することができます。

 

いずれにせよ、相続において遺言書の偽造・変造・破棄などの恐れがあるということは、犯罪性も含め、非常に問題があります。弁護士に相談し、もし万一本当に遺言書に関する不正行為が行われていれば、弁護士に相談、まずは穏便に落とし所を探ることを考え、それでもうまく行かない場合は、民事訴訟・刑事訴訟なども視野に入れた方が良いでしょう。

相続が発生しているのに、中心となる被相続人が遺言書を見せてくれないというトラブルが発生した場合、どうするか?

相続となると、財産の多い・少ないにかかわらずトラブルになることが、意外とあります。

 

特に、相続人間での、財産だけでなく感情も含めたトラブル。

 

今回、事例については多少アレンジはしますが、実際に相談をいただいた事を下敷きに、相続で時折ある「遺言書はあるらしいけど、他の相続人が遺言書を見せてくれない」というトラブルの場合、どう対処するべきかということ、公正証書遺言の場合であれば、他の相続人に知らせずに内容を確かめる方法について書いてみましょう。

 

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他の相続人が遺言書を見せてくれない場合の対処法

 

まず、最低限必要な対処としては、遺言書があると他の相続人が主張する場合、

  • 自筆証書遺言の場合、遺言書の検認を行うよう強く請求すること(相続人であれば、誰でも請求権があります)
  • 公正証書遺言の場合、遺言公正証書の原本を見せてもらうこと

が重要です。

 

自筆証書遺言の場合、7月より始まった法務局での遺言書保管制度を利用している場合以外は、家庭裁判所で遺言書の検認を受ける義務があります。

 

遺言書の検認とは、亡くなった人が自筆で書いた遺言書が正当なものであるかを、確認する手続きです。相続人の中の一人の請求により、裁判所において全相続人の立ち会いの下、変造など不正がないかを確認します。

 

そのため、亡くなった人が自分で書いた遺言が存在するというのに、相続人の一部の人しか遺言を確認していない、という状況は、本来あり得ないのです。

 

そのため、遺言書の検認をするよう相続人に依頼しましょう。

 

公正証書遺言の場合はどうする?

では、公正証書で遺言を作っている、でも他の相続人が遺言書を見せてくれないという場合はどのように対応したらよいでしょうか。

 

実は、公正証書遺言の場合は、自身も相続人であれば、他の相続人に知らせることなく、遺言書の内容を確認することができます。(ただし、被相続人が亡くなっている事が前提です)

 

公正証書遺言の原本は、被相続人が公正証書遺言を作成した公証人役場に保管されています。

 

公証人役場はそれぞれ独立して運営されています。どこの公証人役場で遺言を作成したかがわからない場合は、まずはどこの公証人役場で遺言が作成されたかを確認する「遺言検索」の手続きを行う必要があります。

 

遺言検索の手続きは、公証人役場へ直接行く必要がある

現在も新型コロナウイルスの影響がある状況ではありますが、原則として、遺言検索に関しては、最寄りの公証役場に、電話で予約をした上で、必要書類を揃えた上で出向く必要があります。

 

必要書類としては、

1 亡くなった人と相続人である自分の関係がわかる戸籍謄本(市区町村役場の窓口で、「相続に使うので、亡くなった○○と私のつながりがわかる戸籍一式をお願いします」と言えば大体出してくれます。ただし、戸籍が一つの市町村だけでないケースもあり、この場合は戸籍が移っている市区町村の方にも、郵送で請求をかける必要があります。)

2 亡くなった人の除籍謄本

3 自身の身分証

4 認印

というパターンが多いですが、念のため公証人役場に電話したときに、必要な書類を確認してメモして下さい。

 

必要書類一式を揃えた後、公証人役場へ行き、遺言検索の手続きを行い、公正証書遺言が存在するかを確認、その後、公正証書遺言が存在することがわかれば、「謄本交付」という、公正証書遺言の写しに近い要素を持つ書類の交付を受けるようにしましょう。

 

なお、費用に関しては、1枚250円×紙の枚数となっており、遺言検索は無料です。

 

戸籍取得では千円弱~数千円の費用がかかりますが、両方併せても、手間こそかかれど、費用はさほどかかりません。

 

このように、遺言があるという場合、「本当に遺言書が存在するのか、自筆証書遺言なら検認を受けたのか、公正証書遺言なら、公証人役場に原本があるのか」という点は注意するようにして下さい。

相続人以外でも相続が受けられるケースも?特別の寄与の制度とは?

相続に関していろいろとルールが変わりますよ、ということは解説していますが、「特別の寄与の制度」という制度は、大きな変更点の一つと言えます。

 

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特別の寄与の制度とは?

これまでは、相続人以外の人が、被相続人(なくなった人)の介護にいくら尽力しても、相続財産を取得することができませんでした。

 

よくあるケースとして、被相続人と同居している長男、別居している次男、長女の三人がいて、その3人にそれぞれ配偶者がいたとします。次男・長女は、疎遠で、介護を手伝うどころか、会いにも来ません。

 

でも、長男には子供が産まれることがなく、しかも被相続人より先に事故で亡くなったとしましょう。そして配偶者に当たる妻が被相続人の介護をしてきて、その後被相続人が死去。

 

この場合、介護に尽力した配偶者は、どれくらいの相続ができるでしょうか?

 

実は、これまでの制度なら、遺言などがない限りは、1円も相続できませんでした。義理の父であっても、です。

 

一方で、次男・長女で被相続人の遺産を半分ずつ、総取りできてしまいます。

 

これは介護で頑張った配偶者が気の毒でしょう、ということで、2020年7月の民法改正後は、相続開始後に、配偶者が相続人に対し、金銭の請求ができるようになりました。

 

具体的に、いくらの額が請求されるという事は明確化されていませんが、介護の労力に報いるだけの金額は請求できるようになると思われます。

 

ただ、何も手続きをしなければ請求はできませんし、これまでどれだけ介護に尽力してきたかを記録、立証できる日誌やその他証拠など、「これまで介護でこれだけ労力を払ってきたんですよ」と言える根拠資料は必要でしょう。

 

また、実際に請求を行う上では、弁護士など専門家の助力が必要になる可能性があると想定されます。

 

具体的な請求額が決まっていないからこそ、事前に相続対策を専門家に相談した方がベター

法務省のパンフレットなどでも、特別の寄与の制度で、寄与した人がいくら請求できるということは、数字で明確化されていません。

 

だからこそ、今後相続対策を考える上では、介護に尽力した人の分も踏まえて、遺産分割案を検討していく必要があります。

 

これは、相続人だけで話し合いがつけばベストですが、心配な点がある場合は、事前に専門家に相談して、対策・特別寄与者への配慮を考えておいた方がよいでしょう。

 

注意点は、被相続人の親族が無償で非相続人の療養看護等を行っていること

特別の寄与の制度で注意すべき点は、親族が「無償で」療養・看護を行っていることが前提と言うことです。

 

つまり、生活費を受け取ったり、被相続人の財産から生活費を出していたりした場合は、無償ではないため、特別の寄与の制度の対象外になります。

 

そのため、義理の父・母の療養看護等を行っている場合は、お金を引き出すときに、「この引き出したお金は療養看護のためだけに使いました」ということが立証できるよう、レシートや出納記録など、資金使途が療養看護等だけのものであることを明確にし、自身の為に使っていないことを証明できるようにする必要があります。

 

裁判にせよ、調停にせよ、あらゆる法的手続きは、記録・証拠が全てで、いくら療養看護等に尽力しても、それを第三者に立証できる記録や資料を残しておかないと、いくら権利があっても活用できませんし、逆に、きちんと記録をしておかないと、被相続人の財産を使い込んだと誤解されてしまう可能性さえあります。

 

そのため、療養看護等をせざるを得ない状況、かつ相続権のない人は、ぜひ「無償で療養看護等を行いました」と立証できるよう、記録や資料、通帳での引き出し時には、何のために利用したかを通帳とノートにメモするなど、きちんと後から立証できる証拠を残しておくことを、強くお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年7月の民法改正で、遺留分制度が見直し!注意点は?

2020年7月の民法改正による相続ルールの見直しについて、今回も説明しますね。

 

まず、遺留分という言葉について、なじみがない人もいらっしゃると思うので、簡単に説明します。

 

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遺留分とは?

遺留分とは、配偶者と子供(子供がいない場合は親)が、一定の割合の預貯金・不動産などを、遺言などの内容にかかわらず請求できる権利です。遺留分は、黙っていてももらえるものではなく、遺留分を有する側から、「遺留分減殺(げんさい)請求」という手続きを行わないといけません。

 

ここからより詳しく説明していこうとすると、長くなるので、ざっくりと「配偶者・子供は相続財産の一部を遺言にかかわらずもらえる権利があるんだ、子供がいなければ両親が権利を持つんだ」ぐらいに抑えておいて下さい。(ちなみに、兄弟姉妹は遺留分がありません)

 

遺留分は、土地建物などの共有ではなく、お金で直接支払って!という形に変わる

これまでは、遺留分に関して、現金ではなく、土地建物の一定割合を相続させることでが可能でした。

 

しかし、2020年7月からは、「遺留分の支払いは現金で!土地家屋はNG」という形になります。

 

ただ、遺贈や贈与を受けた側からすると、遺留分の請求者から「いきなり現金で払って!」と言われても、すぐに対応できるとは限りません。一番大変なのが、会社の土地建物など不動産の資産は多いけど、現預金は少ないというパターン。

 

この場合は、裁判所に対し、「すぐに金銭を用意することはできないので、支払期限の猶予を求める」という手続きができます。

 

これも法務省のパンフレットの事例を元に説明してみましょう。

 

経営者(ここでは被相続人にあたる)が亡くなり、妻は既に死去しており、相続人は長男・長女の二人の状態。

 

被相続人の財産として、評価額1億2千万円の土地と、預金が1,200万円あったとします。

 

被相続人は、「私の事業を手伝っていた長男に会社の土地建物全て(評価額1億2,000万円相当)を、長女には預金1,200万円を相続させる」という遺言を作成。

 

このケースで、妻が亡くなっており、相続人は子供2人という状態だと、遺留分は、半分の半分、つまり4分の1となります。

 

そこで、具体的に遺留分侵害額(長女側がもらえる権利がある額)を計算すると・・・

 

 

1億2,000万円+1,200万円=1億3,200万円

1億3,200万円×4分の1=3,300万円

つまり、長女側は3,300万円をもらえる権利があるわけです。

 

これまでだと、1,200万円の現金に加えて、さらに2,100万円の現金を用意するのは難しい、ということで、土地家屋を共有することで、直近の金銭負担を減らせるようになっていました。

 

しかし、民法改正後は、3,300万円を現金で支払わないといけません。

 

延納の手続きはできるとは言え、現金がなければ借入等を行い、現金を用意せざるを得なくなるため、事業や家を承継する人に取っては大変です。

 

一見、土地家屋の物納もOKがいいんじゃない?と思えるが・・

この話を聞くと、2,100万円の分も、現金の代わりに物でOKの今の制度がいいのでは?という人も多いでしょう。

 

しかし、物納をOKにすると、土地建物が複雑な共有割合になり、更に、長女が死亡するなど更に相続が発生すると、共有分が更に分割され・・・と、どんどん土地家屋の所有権者が増え、権利関係が複雑になってしまいます。処分や建て替えをしようにも、基本的には所有者全員の合意がないと手続きができません。

 

そこで、物納はNG、あくまで金銭債権(現預金)で、遺留分を請求するという形になりました。

 

正直、土地を引き継ぐ方は、今回の改正で不利になる一方、これまでは「ハンコ代」などの形で、遺留分ほどではないけれども、まとまった金額をもらうことで妥協した、土地を引き継がない相続人に関しては、遺留分として一定額を現金で請求できる、という有利な状況になります。

 

そのため、特に土地家屋を相続する、事業を相続する側は、これまで以上に他の相続人、その中でも遺留分を有する人に対する配慮が重要になってきます。

 

親から事業を引き継ぐ、土地を引き継ぐという人は、ぜひその点気をつけて下さいね。