贈与税額控除って何?贈与をしている方が知っておくべき控除のルールを解説

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現金や不動産、動産など、財産をあげたときには贈与税が課されることがあります。そしてこの贈与税と相続税は、本来別物ではあるものの実は深い関係性を持っています。

実際、一方の課税を免れるために対策を取っても他方が課されてしまうというケースが多いです。また、場合によっては二重に課されてしまうおそれもあります。これを防ぐために重要な制度が「贈与税額控除」です。以下でその内容を見ていきましょう。

 

贈与税額控除は二重課税を防ぐための制度

相続税対策の一つに「贈与」があります。

生前に財産を渡しておくことで相続による財産の移転を少なくし、課税額を下げるというやり方です。しかしこの贈与をしたとしても相続税の計算に含まれるケースがあります。しかも、それが常に贈与税のことを考慮した計算になっているとは限らず、そのままだと二重に課税されてしまうことがあります。

 

例えば贈与税においては基礎控除額である年間110万円までは非課税ですが、110万円以下の贈与をしていたとしても相続直前に行われたのであれば全額が相続税の計算に含まれてしまいます。110万円を超えていた場合には、すでに贈与税を納めているにもかかわらず相続税の納税をしないといけなくなってしまいます。

 

しかし、過剰な負担がかかっている状態ですので、その分を「贈与税額控除」として是正するのです。

二度目の課税機会がやってきたときに活躍します。相続税の金額から、すでに支払った税額を一定のルール内で引くことができます。

 

申告は必要

贈与税額控除は二重課税を避けるために重要な制度ですが、自動的に適用されるわけではありません。そのため、納税者が自ら気をつけて、計算し、申告などの手続をとらなくてはなりません。

税の計算は非常に複雑ですし、様々なルールを知っておかなければ正確な値を算出できません。法改正がなされることも多いですし、昔に知った情報がすでに古くなってしまっていることもあります。

そのため実際に申告する場合には税理士等の専門家にサポートしてもらいつつ、進めることが大切です。

 

なお、こういった手続のことを更正の請求と呼びますが、相続税の申告期限から5年以内であれば有効ですので、急いでする必要はありません。もちろん、証明できる書類等がなくならないうちにできるだけ早く済ませておくべきですが、急いで自分で行うことなく、正確に、確実に行うようにしましょう。

 

贈与税額控除の2パターン

贈与税額控除が登場する場面としては主に2パターンが挙げられます。

1つは「生前贈与加算」が適用されることによる二重課税を避ける場面。もう1つは「相続時精算課税」が関係する場面です。

いずれも、一定額を超えた贈与分につき贈与税をすでに納めていることが条件です。相続時精算課税については期間の制限がないため、かなり昔の課税が問題になることもあります。そのため二重課税を避けるためにも、できるだけ資料は残しておくということが大事になるでしょう。

生前贈与加算にも対策は取れる!節税効果低減への対策方法を解説

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相続税を小さくすることは簡単ではありません。複雑に絡み合っているルールを網羅的に把握しなければなりません。生前贈与加算の制度もそこに関係しています。

そこでここでは、生前贈与加算によって節税効果が低減してしまわないよう、対策方法を解説していきます

 

相続人以外への贈与がポイント

生前贈与加算は、「相続、遺贈により財産を得る者」に対し、「相続が始まる前3年分の贈与」を相続税の計算に含めるという内容です。

一般的な節税対策として知られている生前贈与も、この制度が設けられていることにより一部制限がかかっているのです。3年以上前、かなり計画的に進めておかなければ意味が亡くなってしまい、死期を悟ってから急いで贈与をしたとしても間に合いません。

 

しかし、対策が取れないわけでもありません。

法律で定められているこの対象者以外の者へ贈与をすれば良いのです。

 

例えば被相続人に配偶者と子がおり、その子に、さらに子(孫)がいたとします。

そうすると、基本的にはその孫は相続人となりませんし、当該加算ルールの適用を受けません。

そこで、節税のみに着目をするのでれば、子に対し贈与をしておくのではなく、孫に対して贈与をしておくのが得策と言えます。

 

ただ、冒頭でも説明したように、課税に関するルールは複雑です。

一つの制度の抜け穴を通ることができたとしても、別の制度にひっかかってしまうという例は多いです。実際、孫への生前贈与でもまるまる節税効果が得られるとは限りません。以下の注意点も押さえておきましょう。

 

相続人以外への贈与における注意点

孫でも、「代襲相続人」となることがあります。

例えばその孫の親が死亡している場合、「相続、遺贈により財産を得る者」に該当することになり、生前贈与加算の対象になります。事前に贈与をしていたものの、相続が開始される前3年以内にその子の親(被相続人から見た子)が死亡してしまうと節税の意味がなくなってしまいます。

 

また、孫への贈与で対策を取っている場合には、遺言にも注意が必要です。遺言によってさらに贈与をするのであれば、やはりその孫は「相続、遺贈により財産を得る者」にあたります。

 

孫が生命保険金の受取人とされている場合には注意しましょう。この場合、「遺贈で財産を得る者」としてみなされてしまいます。

 

生活費の仕送りは課税対象外

贈与をした場合には贈与税における課税にも配慮しなければなりませんが、生活費を支援する場合など、一部課税されないものもあります

「扶養義務者」として認められた上で、生活費の仕送りをしていたのであれば、その分は別枠として捉えることができます。具体的には、教育費・結婚費用・出産費用などです。

 

生前贈与加算への対策を紹介しましたが、節税を狙いすぎて親族間のトラブルが生じないようにしなければなりません。受け取れると期待していた財産が受け取れず、関係性が悪化することもありますので、その点も踏まえてより良い形で相続が始まるように準備すべきでしょう。

生前贈与加算とは?相続税対策で注意すべきルールを解説

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引き継がせる財産が大きいほど、納めるべき税金が増えます。

そのため、単純に考えれば、亡くなる前にできるだけ不動産や預貯金などを渡しておくことで節税ができます。

しかしこれを無制限に認めていると税金を徴収するという本来の目的を果たせなくなってしまいます。そこで「生前贈与加算」というルールが設けられています。

 

生前贈与加算とは

相続財産がなければ、当然、相続税はゼロです。

しかしこの場面での課税では、実質面が見られます。つまり、相続開始時に被相続人が持っていた財産ではないものの「実質的に相続財産とみなせるもの」を法律で定めることによって、課税機会を増やしているのです。

生前贈与加算もその観点から設けられたルールの一つで、「相続直前の贈与分を、相続税の計算に含める」という内容になっています。

 

つまり、節税になると思って繰り返していた贈与も、無駄になる可能性があるということです。

 

生前贈与加算が適用される者

この加算ルールが適用される者は「相続、遺贈によって財産を得た者」です。

対象者の幅は広いです。

 

そのため、非課税の不動産や動産だけを得た人や、非課税の範囲で保険金・退職金等を得た人も当該ルールの対象者となります。

逆に、生前の贈与だけを受けており、相続・遺贈による財産取得がなかった人については適用がありません。

 

いつ贈与した分に加算されるのか

加算ルールが適用される範囲は非常に重要なポイントです。

生前贈与加算においては、相続が始まる前3年の贈与が対象です。

つまり、4年前や5年前に贈与をしていたのであれば、節税の効果が見込めます。

 

これだけ前の話であれば、死期を悟って急いで課税を免れるために対処したとは考えにくいですし、過去にさかのぼり過ぎると証拠の散逸により手続が煩雑になってしまうという問題も出てくるからです。

 

よって、相続税対策を取りたい方はかなり前もって、計画的に贈与を行う必要があるでしょう。なお、問題となるのは生前贈与加算だけではありませんので、贈与税やその他のルールも総合的に見ながら対処していく必要があります。

 

贈与税と同じ基準で計算するわけではない点、注意

贈与税は基礎控除額が110万円と定められており、年間この金額以下の贈与であれば基本的に課税はありません。

しかし生前贈与加算が適用されて相続税の計算に含まれる場合、たとえこの控除額以下の贈与であったとしても関係ありません。

 

このように、相続税の計算は複雑で、様々なルールを同時に考えなくてはなりません。不安があるという方は行政書士等の専門家に相談して対策を取るようにしましょう。

遺留分侵害額請求の手続きと大まかな費用

遺留分侵害額請求の手続きの概要と大まかな費用を見ていきましょう。 

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遺留分侵害額請求の手続きと大まかな費用

遺留分侵害額請求の方式

遺留分侵害額請求は口頭でおこなうことができます。
ただし、口頭で相手に伝えても、何ら証拠が残りませんので、書面によるのが好ましく、内容証明郵便などを利用すると良いでしょう。

また、遺留分侵害額請求の相手が任意に支払ってくれるとは限らず、そのような場合は、遺留分侵害額請求の調停を利用することができます。
遺留分侵害額請求の調停が整わない場合、審判へと進んでいきます。

なお、令和元年7月1日より前の相続の場合、遺留分減殺請求により物件返還請求の調停を利用します。

なお、遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内、または、相続開始の時から10年以内に行使しなければなりません。

 

遺留分侵害額請求に掛かる費用

遺留分侵害額請求にかかる費用は、家庭裁判所や市区町村に払う費用と、専門家への報酬です。

 

公的機関に支払う費用

まずかかるのは、内容証明郵便の費用です。
調停を利用する場合は、遺留分侵害額請求の調停にかかる費用と戸籍謄本などの取得費用がかかります。

参考:内容証明郵便、遺留分侵害額請求の調停の申し立て費用

  支払先 費用
内容証明郵便 家庭裁判所 郵便の基本料に内容証明料などが加算され、書留
遺留分侵害額請求の調停 郵便局 ・収入印紙1200円分
・連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所へ確認要)



弁護士などに依頼する費用

遺留分侵害額請求を専門家に依頼する場合、次の方法が考えられ、それぞれに費用がかかります。

  • 遺留分侵害額請求の内容証明郵便のみ作成してもらう
  • 遺留分侵害額請求調停の申立書を作成してもらう(不随する戸籍謄本を取り寄せてもらう)
  • 内容証明郵便の作成と送付、遺留分侵害額請求調停への移行などすべて依頼する

内容証明郵便の作成と送付、相手との交渉や遺留分侵害額請求調停への出席など、すべてを行えるのは弁護士だけなので注意しましょう。
行政書士、司法書士はそれぞれ業務範囲があるので、報酬が安くても解決まで面倒を見てもらえるわけではありません。
報酬だけでなく、それぞれの専門家に頼める内容を事前に確認してください。

 

遺留分侵害額請求は弁護士に相談するのがおすすめな理由

ここまでで、遺留分侵害額請求の相手や、手続きがわかりましたが、自分で遺留分侵害額請求ができるか、弁護士に相談するほうが良いか、悩むのではないでしょうか。


遺留分侵害額請求をするなら、弁護士に相談するのがおすすめな理由を確認します。

 

遺留分算定の基礎を計算してもらえる

前述のように、遺留分算定の基礎の計算は、意外と面倒な場合もあります。
債務や複数の不動産がある場合は、計算が大変です。
遺留分算定の基礎を計算する前提として、相続財産を全て洗い出さなければなりません。

 

また、生前贈与は、遺留分侵害額請求の対象となるかどうか確定が難しいこともあります。
弁護士に依頼すれば、相続財産の確定から遺留分算定の基礎の計算まで任せることができるので、心強いでしょう。

相手と代理で交渉してもらえる

遺留分を侵害する生前贈与や遺言がある場合、遺留分権利者と受贈者や受遺者の関係性が悪化していることもあります。
見知らぬ他人が遺留分侵害額請求の相手かもしれません。

気まずい相手とシビアな交渉を自分でおこなうのは、大きなストレスです。


客観的に交渉をおこない、優位に運んでくれる弁護士に依頼することをおすすめします。

手続きや裁判が心強い

遺留分侵害額請求の内容証明郵便は、形式だけ本で調べて自分で書くと、何か間違いがあるかもしれません。
また、遺留分侵害額請求の調停になったとき、家庭裁判所という慣れない場所で相手と話し合わなければなりません。

 

これら、遺留分侵害額請求の内容証明郵便作成や、遺留分侵害額請求の調停での交渉すべて、弁護士なら引き受けてくれます
非常に心強いのではないでしょうか。

 

まとめ

数回にわたって遺留分侵害額請求と遺留分減殺請求の違い、遺留分侵害額請求の方法などを見てきました。

 

遺留分を侵害する生前贈与や、遺言そのものは有効です。
しかし、金銭的にも心情的にも、相続人として権利を主張したいと思う方もいるでしょう。


その際はスムーズに交渉が進むようにするためにも、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

 

遺留分侵害額請求を受けてしまった人も、弁護士に相談してみてください。
冷静な話し合いをおこなってもらえるので、精神的・時間的な負担を軽減することができます。

 

遺留分侵害額請求権と遺留分減殺請求権の違い

遺留分侵害額請求権と似た権利で、遺留分減殺請求権があります。

この2つは令和元年7月1に民法が改正されたため、現在は併存しています。

似た部分もある2つの権利ですが、根本的に違う点があるので、見ていきましょう。

 

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遺留分侵害額請求権と遺留分減殺請求権の違い

令和元年7月1日より前の相続の場合

令和元年7月1日に、新しい遺留分侵害額請求というルールが始まっています。
被相続人が亡くなったのが、令和元年7月1より前の場合、遺留分権利者は遺留分減殺請求権を行使することができます。
また、被相続人が亡くなったのがいつかにより、家庭裁判所に申し立てる調停が変わります。

 

なお、遺留分権利者の範囲や、遺留分割合は、遺留分減殺請求権も遺留分侵害額請求権も同じです。

 

遺留分を主張する請求権の違い

  名称 家庭裁判所での調停
令和元年7月1日以降の相続 遺留分侵害額請求権 遺留分侵害額の請求調停
令和元年7月1日より前の相続 遺留分減殺請求権 遺留分減殺請求による物件返還請求権等の調停

 

遺留分減殺請求権は物の返還を求める権利

遺留分侵害額請求権と遺留分減殺請求権の大きな違いは、金銭の支払い請求しか認められないか、物件の返還を求めることができるかという点です。

遺留分侵害額請求権と遺留分減殺請求権の大きな違い

遺留分侵害額請求権 金銭支払い請求権(物件の返還を求めることはできない)
遺留分減殺請求権 物件返還請求権

 

たとえば、被相続人Xの財産は3000万円相当の土地のみ、Xの法定相続人は妻Y、遺留分算定の基礎は3000万円という例で考えます。
Xは友人Aにこの土地を遺贈する遺言を残していました。

 

このケースでは、Yは2分の1の遺留分を害されています。
Yは、この土地の2分の1の権利を自分に戻すように言えるかという点が、遺留分侵害額請求権と遺留分減殺請求権の違いです。

 

Xが令和元年7月1日以降に亡くなったのであれば、Yが行使できるのは遺留分侵害額請求権なので、Aに対して土地の持分を返還するように請求することはできません。
Aに対してできるのは、1500万円相当の金銭を請求することだけです。

 

Xが令和元年7月1日より前に亡くなったのであれば、Yが行使できるのは遺留分減殺請求権なので、Aに対して土地の持分を返還するように請求することができます。

 

対象となる生前贈与・遺贈の範囲

遺留分侵害額請求と遺留分減殺請求の対象は、遺贈または生前贈与です。
遺贈は、遺留分侵害額請求と遺留分減殺請求双方の対象となりますが、生前贈与については、細かな違いがあります。

 

 

対象となる遺贈・生前贈与の範囲

  遺留分侵害額請求 遺留分減殺請求
遺贈
相続人以外の人への生前贈与 相続開始前の1年間の贈与に限る(例外あり)
相続人への生前贈与 婚姻や養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与の場合は、相続開始前10年間におこなわれた贈与に限る(例外あり) 〇(原則)

相続人以外の人への生前贈与は、原則として直近1年のものだけが対象ですが、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた贈与も対象となります。

 

相続人への生計の資本などとして行われた生前贈与は、遺留分侵害額請求と遺留分減殺請求の対象は異なります。
遺留分減殺請求では原則として、相続人への生計の資本などとして行われた生前贈与も対象となります。

 

遺留分侵害額請求は、相続人に対して生計の資本等のために行われた場合、原則として相続開始前10年間の贈与が対象です。

ただし、例外的に、被相続人と相続人双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って、相続開始前10年より前に行われた贈与も遺留分侵害額請求の対象です。

  

遺留分侵害額請求の対象となる財産の計算方法

遺留分侵害額請求の内容や対象がわかりました。
次に、遺留分侵害額請求の対象となる財産の計算方法や注意点を見ていきます。

 

遺留分算定の基礎となる財産の計算方法

遺留分の額を具体的に計算するためには、遺留分算定の基礎となる財産の額を確定しなければなりません。

遺留分算定の基礎となる額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に、その贈与した財産の価額を加えて、さらに債務の全額を控除することで算出することができます。

相続開始時に被相続人が有していた財産だけでなく、生前贈与を足すことができるということです。

なお、前述の通り、生前贈与はすべてが遺留分侵害額請求の対象ではありませんので、加算できる生前贈与は限られています。

 

計算時の注意点

遺留分を算定するにあたっては、遺留分算定の基礎となる財産の額を評価する基準時が問題となります。
たとえば、遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与された不動産が、当時の価格は5000万円、相続開始時は3000万円の価値である場合は、どうなるでしょうか。

 

遺留分権利者にしてみれば、5000万円で評価してほしいところですが、「相続開始時」の価格を基準として、遺留分算定の基礎となる財産の額を評価します

 

また、条件付きの権利または存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人によって鑑定してもらわなければなりません。
そのような権利は、鑑定人の評価にしたがって、価格を決めることになります。

 

なお、被相続人が生前に行った有償行為(売買等)であっても、不相当な対価だったときは、遺留分算定の基礎となる財産の額に算入する場合があります

 

当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知っていたときに限って、対価を控除した額を贈与とみなすことができます。

 

具体的な計算例

たとえば、法定相続人が被相続人Xの子A、Xが全財産を法定相続人以外に遺贈した場合を考えます。
遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与された不動産が、当時の価格は3000万円、相続開始時は5000万円の価値だとしましょう。
また、Xには3000万円の預金と2000万円の債務がありました。
このケースの遺留分算定の基礎となる財産の額は以下の通りです。

 

3000万円の預金(被相続人が相続開始の時において有した財産の価額)+5000万円(対象となる生前贈与)-2000万円(債務)=6000万円(遺留分算定の基礎となる財産の額)

 

なお、配偶者と子の遺留分は全体で2分の1なので、Aの遺留分は全体で2分の1、つまり3000万円です。

遺留分侵害額請求権とは?

民法では誰が、どのくらいの割合で相続するかを定めていて、これは、法定相続人と法定相続分と呼ばれています。

しかし、財産を有する人は、誰にどのくらい財産を残すか、自由に決める権利を有しています。

 

生前贈与をする、法定相続人以外の人に遺贈したり、法定相続分とは違う割合で相続させる遺言をのこしたりする権利です。
このような被相続人(亡くなった人)の生前贈与や遺言により、期待した法定相続分を相続できないことがあります。
遺言と法定相続制度の調整のために設けられているのが遺留分という制度です。

 

この記事では、遺留分を害された人に認められる遺留分侵害額請求の権利について詳しく解説します。

遺留分でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。

 

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遺留分侵害額請求権とは?

遺留分とは、一定の法定相続人に認められた権利で、遺言との調整役を果たしています。
遺留分が誰にどのくらい認められるか、法定相続分との違いを確認します。

遺留分権利者と遺留分割合

まず、遺留分権利者と遺留分割合を見ていきましょう。

遺留分権利者

遺留分権利者は、兄弟姉妹を除く法定相続人です。
つまり、被相続人の配偶者、子、直系尊属が遺留分権利者となります。
子が被相続人より先に亡くなっている場合、被相続人の孫が代襲相続しますが、孫も子と同様の遺留分が認められます。

 

なお、兄弟姉妹が法定相続人になる場合であっても、兄弟姉妹に遺留分は認められませんので注意しましょう。

 

遺留分割合

次に、遺留分割合を確認します。
「遺留分」と、後述する「法定相続分」は異なりますので注意しましょう。

遺留分割合は、次のようになります。

  • 遺留分を算定する財産の価額の2分の1
  • 遺留分を算定する財産の価額の3分の1(直系尊属のみが法定相続人の場合)

上記の遺留分は、遺留分権利者全体の割合なので、この全体的遺留分に各自の法定相続分を乗じると、個別の具体的遺留分割合を算出することができます。

 

遺留分侵害額請求権

上述の遺留分を害する生前贈与や遺言があった場合、遺留分権利者は遺留分侵害額請求をすることができます。
なお、遺留分を害する遺言も有効であり、遺留分権利者は遺留分侵害額請求をしないこともできます。

 

法定相続人と法定相続分

遺留分の計算には、法定相続人と法定相続分の知識も必要です。
ここで、法定相続人と法定相続分の概要を確認しておきます。

 

法定相続人と法定相続分

遺留分権利者と法定相続人は異なります。
法定相続人は、配偶者、子、直系尊属、兄弟姉妹であり、その順位や法定相続分は以下の通りです。

 

参考:法定相続人の範囲と順位

常に相続人 配偶者(法律上の配偶者のみ)
第1順位 子(養子、婚外子を含み、孫、ひ孫の代襲相続あり)
第2順位 直系尊属(祖父母は代襲相続権なし)
第3順位 兄弟姉妹(代襲相続は甥・姪の1代限り)

この順位とは、「優先」という意味と理解しましょう。
第1順位が優先、第1順位がいなければ第2順位、第2順位がいなければ第3順位の者が法定相続人です。

言い換えれば先順位の者がいる場合、後順位の者は相続できないということです。

法定相続分は、配偶者と子、配偶者と直系尊属、配偶者と兄弟姉妹がいる場合の割合を押さえておくと分かりやすくなります。

 

 

参考:法定相続分

配偶者と子の場合 配偶者が2分の1、子が2分の1
配偶者と直系尊属の場合 配偶者が3分の2、が3分の1
配偶者と兄弟姉妹の場合

配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1

(父母を異にする兄弟姉妹は、父母を同じくする兄弟姉妹の2分の1)

土地の相続税を節税する方法とトラブルを防ぐコツ

土地を相続した場合、小規模宅地の特例を受けられると相続税の節税につながります。
相続税の節税目的のために、生前贈与が利用されるケースも少なくありません。

そこで、土地の相続時に相続税を節税する方法について見ていきます。

また、土地の相続トラブルを防ぐコツも紹介します。

 

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土地の相続時に相続税を節税する方法

特定居住用宅地等の場合は330㎡まで80%減

小規模宅地の特例とは、相続税の計算をする際、一定の条件を満たすと土地の評価額を通常より減額できる制度を言います。

 

相続した土地が「特定居住用宅地等」に該当する場合、その土地の330㎡までであれば、通常より80%減額されます。
特定居住用宅地等とは、被相続人が居住していた家の土地のことです。

 

上記に該当する土地を配偶者が相続した場合、小規模宅地の特例を受けられるため、相続税を節税できます。

 

また、被相続人の子などの親族が相続する場合でも、一定条件を満たすと小規模宅地の特例の適用対象となります。

 

その他、相続財産の土地が被相続人の事業用の土地の場合や賃貸物件の敷地の場合も、小規模宅地の特例の適用対象になるケースがあります。

 

土地を相続する場合、小規模宅地の特定の適用を受けることで、相続税の節税を考えていくのが通常です。

 

 

生前贈与による相続税の節税効果はあまりない

贈与税の配偶者控除制度を利用して夫婦間で生前贈与を行なうと、2000万円までであれば非課税になります。

 

しかし、相続税の節税対策としてはあまり効果がありません。
相続税にも配偶者控除制度が設けられているため、そこでも節税効果が得られるからです。

 

また、小規模宅地の特例を受けられれば、相続税の課税対象外になるケースも多いです。

 

 

土地の相続トラブルを防ぐコツ

相続人間で土地の相続についての話し合いがまとまらず、トラブルになるケースもめずらしくありません。

 

たとえば、相続人のうちの1人が単独で土地を相続しようとしても、それについて他の相続人が不平等だと感じて、話し合いに応じないというのもよくある話です。

 

そこで、土地の相続トラブル発生をどのようにして防げばいいのか、そのコツを解説していきます。

 

単独相続させたい場合は遺言書を残す

土地を相続人の1人に単独で相続させたい場合、平等な形で相続財産を分配できる状態になければ、遺産分割協議の方法によることは困難です。
そのため、あらかじめ遺言書を作成して、土地を相続させる相続人を決めておくことが大切です。

 

遺言書を作成しておけば、相続発生後、原則としてその内容に沿って相続手続きが進められます。
その結果、スムーズに相続人の1人へ土地を相続させることができるのです。

 

遺言書を作成する際には遺留分のことも考える

相続人の1人に土地を相続させるために遺言書を作成する際、遺留分のことも考えなければなりません。

 

なぜなら、相続発生後、遺言書の内容のとおり、相続人の1人に土地の権利を承継させても、他の相続人が遺留分請求する可能性もあるからです。

 

遺留分とは、法律上で保障されている相続人の最低限の相続分を言います。
相続手続きの際、遺留分を侵害された相続人は、相続財産の取得者に対してその旨の請求ができます。

 

相続人の1人に土地を相続させる旨の遺言書を作成する場合、他の相続人の遺留分を侵害しない内容のものにすることが大切です。

 

 

まとめ

土地の相続手続きを行なう場合、その手順、必要書類、費用の他、相続人間での分割方法についても理解しておく必要があります。
また、相続した土地の売却手続きの流れについても把握しておいたほうがいいでしょう。

 

土地の相続手続きでは、相続税が課税されたり、相続トラブルが発生したりするケースもあります。
そのため、相続税の計算方法や節税方法、相続トラブルの事前対策についても知っておきたいところです。

 

土地の相続ではさまざまな知識が求められるため、一般の方が自身で手続きを進めるのは簡単ではありません。
スムーズに土地の相続手続きを進めたいのであれば、専門家の活用を検討してみてもいいでしょう。

相続した土地を売却する方法と相続税の計算方法

保有意思や使用用途がないため、相続した土地を売却して手続きを進めるケースもあります。
相続した土地の売却も通常の不動産売却と同様、一定の手続きを踏まなければなりません。

相続した土地の売却は、以下の流れに沿って手続きを進めていきます。

 

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相続した土地を売却する方法

土地の相続登記手続きを済ませる

 相続した土地に限らず、不動産を売却する際、その名義が売主になっていなければなりません。
そのため、相続した土地を売却する前提として、相続登記の手続きを済ませておく必要があります。

 

一般的な相続登記であれば、手続き完了までそれほど時間がかからないため、相続した土地の売却に支障が出る可能性はほとんどないでしょう。
しかし、相続人が多数いる場合や相続関係が複雑である場合などは、手続き完了まで長い時間を要するケースもあります。

 

それにより、相続した土地の売却手続きをなかなか始められないこともあります。

 

不動産仲介業者の選択

相続した土地を売却する場合、不動産仲介業者に手続きを依頼するのが通常です。
不動産仲介業者と一口にいっても、各業者によって取り扱う物件の種類や得意分野が異なります。

 

不動産仲介業者の得意分野や業務内容と相続した土地の内容を加味しながら、依頼先を選択することになります。

 

契約・残代金決済・土地の引渡

不動産仲介業者に相続した土地の売却手続きを依頼すると、営業担当者が買主を探すための販売活動を行ないます。

 

営業担当者の販売活動により、相続した土地の購入希望者が見つかった場合、売買の条件交渉を行ないます。

 

売買の内容や条件に双方が合意した場合、契約を締結するのが通常です。
契約の際には、買主が売主に対して手付金の支払いをします。

 

売買契約締結から一定期間経過後、残代金決済と土地の引渡を行ない、この手続きが済めば相続した土地の売却が完了します。

 

確定申告手続き

相続した土地を売却して利益が出た場合、原則として譲渡所得税が課税されます。
その場合は、売却した年度の翌年の2月16日~3月15日までの間に確定申告の手続きをした上で納税をしなければなりません。

 

相続税の計算方法

土地の相続手続きをする際、被相続人の保有財産の額によっては、相続税が課税されるケースもあります。

 

相続税の課税対象となった場合、その金額を計算した上で申告と納税をしなければなりません。
そのため、相続税の計算方法についても把握しておくことが大切です。

 

相続税の計算は、以下の手順で行います。

 

課税遺産総額を算出する

相続税を計算するためには、最初に課税遺産総額を算出する必要があります
それには、まず以下の計算式で純資産価額を算出しなければなりません。

 

「相続、遺贈による取得財産額+みなし相続財産額-非課税財産額+相続時精算課税制度による贈与額-債務および葬式費用の額=純資産価額」

 

純資産価額に相続開始前3年以内にされた贈与財産額を加算すれば、課税価額の合計額が算出できます。

 

そして、課税価額の合計額から基礎控除額(3000万円+「600万円+法定相続人の数」)を差し引くと、課税遺産総額が求められます。

 

相続税の総額を算出する

課税遺産総額を算出後、相続税の総額を計算します。
相続税の総額は、課税遺産総額を相続人間で法定相続分により分割したと想定した上で算出します。

 

たとえば、課税遺産総額が5000万円で、相続人が被相続人の子Aと子Bの2名だったとしましょう。
この場合、AとBの法定相続人は各2分の1ずつとなるため、分割により2500万円ずつ取得したものとします。

 

相続税の総額の基となる税額を求める際、その金額が2500万円である場合、15%の税率を乗じた後、控除額の50万円を差し引きます。

 

上記のとおりに計算すると、その金額は325万円です。
したがって、相続税の総額は、325万円×2=650万円となります。

 

各相続人の納税額を算出する

相続税の総額を算出後、各相続人の納税額を計算します。
各相続人の納税額は、相続税の総額に各相続人の実際の相続財産取得割合を乗じて計算します。

 

たとえば、上記の例において、Aが5分の4、Bが5分の1の割合で相続財産を取得したとしましょう。
この場合、Aの納税額は「650万円×5分の4=520万円」、Bの納税額は「650万円×5分の1=130万円」となるのが原則です。

 

ただ、相続関係や状況により、相続人が各種控除の対象となったり、税額加算の対象となったりするケースもあります。
そのような場合、上記の算出額より納税額が少なくなったり、多くなったりします。

土地の相続手続きの流れ・必要書類・費用

土地の相続手続きは、権利を取得する相続人を決定した上で、その人の名義に変更する形で行ないます。

 

土地の相続手続きをする際、提出しなければならない書類が複数あります。
そのため、手続き前に必要書類を準備したり、作成したりしなければなりません。
また、手続きをする際に費用が発生するので、その点も考慮しておく必要があります。

 

土地の相続手続きを行なう場合、その流れ・必要書類・費用の内容を把握しておくことが大切です。

 

そこで、土地の相続手続きの流れ・必要書類・費用について、具体的に解説していきましょう。

 

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相続関係の確定および権利取得者を決定した上で土地の相続登記をする

土地の相続手続きをするために行なう名義変更のことを相続登記と言います。

 

相続登記を行なう前に、相続関係と相続手続き対象土地の内容の確認および土地の権利を取得する相続人の決定をしなければなりません。

 

土地の相続手続きは、以下の流れに沿って行なうのが通常です。

 

相続人の確定および相続手続き対象土地の内容確認

相続によって土地の権利を取得できるのは、被相続人の相続人となる人だけです。
土地の相続手続きを行なうには、まず、相続人の確定作業を行なわなければなりません。

 

相続人の確定作業は、被相続人と相続人の相続関係が確認できる範囲の戸籍を取得した上で行ないます。

 

被相続人の相続人が配偶者と子である場合、被相続人の出生から死亡までの範囲の除籍謄本、配偶者と子の現在戸籍謄本の取得が必要です。

 

また、相続手続き対象土地の内容確認の作業も行なわなければなりません。
内容を確認しないで手続きを進めると、一部の土地を見落としてしまう場合もあるからです。

 

相続手続きの対象土地の内容は、権利証記載の不動産の表示を見て確認できます。
また、固定資産評価証明書や名寄帳を取得して確認することも可能です。

 

土地を取得する相続人の決定

相続人の確定および手続き対象土地の内容確認が済んだら、土地の相続手続きで権利を取得する相続人を決定します。

 

相続人全員で遺産分割協議を行なって土地の権利を取得する相続人を決定するのが原則です。

 

遺産分割協議とは、被相続人の相続財産の分配について、相続人全員で話し合いをする手続きを言います。

 

遺産分割協議は、相続人全員が参加することではじめて有効に成立します。
そのため、相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。

 

また、被相続人が生前に遺言書を作成していた場合、その内容に沿って相続手続きを進めるのが原則です。

 

遺言書に土地の権利承継者が明記されていれば、その者が取得します。
このようなケースでは、遺産分割協議を行った上で、土地の権利を取得する相続人を決定する必要はありません。

 

相続登記の必要書類の準備および作成

土地の権利を取得する相続人が決定した後、その者への名義変更手続きをするための準備をします。

 

相続登記手続きは、対象土地の所在地を管轄する法務局に申請書と必要書類を提出して行わなければなりません。
そのため、必要書類を準備した上で申請書を作成する必要があります。

 

相続登記の申請および手続き完了

必要書類の準備と申請書の作成が終われば、相続登記の申請手続きを行ないます。
対象土地の所在地を管轄する法務局に対して、持参または郵送の方法で申請書と必要書類を提出することになります。

 

また、環境が整っている場合、オンライン上で申請書と必要書類の一部を提出することも可能です。

 

相続登記の申請手続き後、法務局側で提出された申請書と必要書類の内容を確認します。
申請書と必要書類の内容に不備があった場合、申請者側で訂正しなければなりません。
内容に問題がない場合、申請された相続登記の処理がなされ、新しい権利証(登記識別情報通知書)が発行されます。

 

相続登記の手続きは、申請から1週間前後で完了するのが通常です。

 

相続関係やその状況によって必要書類の内容も異なる

土地の相続手続きの必要書類の内容は、被相続人の相続関係やその状況によって異なります。

 

たとえば、被相続人が生前に遺言書を残しているか否かで必要書類の内容が変わってきます。
そこで、ケース別ごとに相続登記の必要書類の内容を見ていきましょう。

 

遺産分割協議後に相続登記を行なうケース

相続人全員で遺産分割協議を行なった上で相続登記の手続きを行なう場合、以下の書類を提出します。

 

必要書類

  • 土地の相続登記の申請書
  • 被相続にの出生から死亡までの期間の除籍謄本等
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
  • 土地の権利を取得する相続人の住民票
  • 遺産分割協議書
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 固定資産評価証明書

 

遺言書の内容に基づいて相続登記を行なうケース

生前に被相続人Aが残していた遺言書に「土地をB(相続人の1人)に相続させる」旨の記載があったとします。

 

この場合、遺言書の内容に沿って相続登記を行ない、B名義に変更します。
上記手続きの際に提出する書類は、以下のとおりです。

 

必要書類

  • 土地の相続登記の申請書
  • 遺言書
  • 被相続人Aの死亡の記載のある除籍謄本
  • 相続人Bの戸籍謄本
  • 被相続人Aの住民票除票または戸籍の附票
  • 相続人Bの住民票
  • 固定資産評価証明書

 

費用には実費と専門家への報酬がある

土地の相続手続きを行なう場合、費用が発生します。
発生する費用には、実費と専門家への報酬があります。

 

土地の相続手続きで発生する費用の具体的内容は、以下のとおりです。

 

必要書類の取得費用や登録免許税が主な実費

相続登記の申請手続きをする際、登録免許税を納付しなければなりません。
相続登記で納付する登録免許税の額は、「固定資産評価額×1000分の4」で算出された額となります。

 

たとえば、固定資産評価額が1,000万円である場合、登録免許税の納付額は4万円です。
登録免許税の納付義務は、登記申請者である土地の権利を取得する相続人に課せられます。
そのため、相続登記の際、登録免許税を実費として負担することになるのです。

 

また、土地の相続手続きで必要な戸籍、住民票、固定資産評価証明書を取得する場合、それぞれ費用がかかります。

 

取得費用は1通数百円単位ですが、戸籍の場合は複数通必要になることも多いため、数千円単位の実費が発生するのが通常です。

 

その他、相続登記の手続きをする前後で登記事項証明書を取得するため、その費用も実費として負担します。
こちらの費用は、1通数百円単位です。

 

専門家への報酬は5~7万円程度が相場

登記の専門家である司法書士へ相続登記の手続きを依頼する場合、報酬を支払わなければなりません。

 

相続人が配偶者と子といった一般的な内容の相続登記の場合、司法書士への報酬は5~7万円程度が相場になります。

 

ただ、相続人が多数で相続関係も複雑であったり、手続き対象の土地が多数であったりする場合、報酬の額が数十万円単位になることもあります。

相続に必要な戸籍の請求方法

相続が発生すると、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍を金融機関・税務署等に提出する必要があります。

 

近年、法定相続情報証明制度という、戸籍謄本の情報を元に相続関係情報を法務局でまとめてくれるサービスが始まりましたが、このサービスを利用するためにも、出生から死亡までの戸籍謄本の取得が必要です。

 

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戸籍を請求する上でシンプルな方法は、本籍地のある市区町村役場に出向き、「亡くなった○○の出生から死亡までの一式の戸籍を発行して下さい」と伝えることです。

 

また、戸籍における本籍地の変更がある場合は、途中で戸籍のある市区町村が移動している可能性があります。

 

その場合は、(特に、昔の手書きの戸籍の場合)窓口の人に「どこの市区町村に転籍しているか」を確認する必要があります。

 

その場合、転籍した市区町村に対し電話をし、引き続き窓口に「相続で必要なので出生から死亡までの一連の戸籍謄本が欲しい」と伝え、申請先に、戸籍謄本発行に必要な定額小為替(ゆうちょ銀行で購入します)と返信用封筒を同封(その他請求者の身分証・返信用封筒など、市区町村が要求するものを同封)、当該市町村の市民課等に送付する必要があります。

 

ただ、手続は平日の8:45~17:15(役所によって若干違いあり)でないとできないため、多くの人は平日に動くことが厳しいと思います。

 

戸籍謄本を取得するために平日休むのが難しい、という場合は、税理士・司法書士・行政書士などに、戸籍謄本の取得代行を依頼して、代わりにやってもらうという手もあります。

 

また、税理士に相続に関する業務を一任している場合、相続手続の一環として戸籍の徴求も行ってくれるため、一番手間がかからないのは、最初の段階から税理士に依頼してしまうことです。

 

戸籍というのは、センシティブな情報であるため、第三者は原則として、簡単に取得する事ができません。

 

専門家の場合、職務権限で代理で戸籍を取得する書類を持っていますので、全て専門家の方で書類請求や各種連絡、書類取得を行ってくれます。

 

もちろん、請求費用はある程度かかりますが、自分で請求する手間や、書類の郵便での往復における時間ロス、肉体的・心理的負担の軽減などを考えると、できるだけ専門家に任せられる物は、任せていった方が良いと言えます。

 

相続に必要な書類は他にも多い

相続では、戸籍謄本だけでなく、様々な書類が必要になります。例えば、

  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑証明書(印鑑証明書は本人でないと取得できない)
  • 相続人全員の住民票の写し

が様々な手続で必要になります。

 

また、不動産の名義変更など登記も発生しますが、その場合、

  • 遺産分割協議書の写し
  • もしくは遺言書の写し
  • 登記する不動産の固定資産証明書
  • 登記する不動産の登記識別情報通知(シールが貼ってある物)か登記事項証明書

などが必要になります。

 

さらに、税務申告が生じる場合はまた別途書類が必要になり・・・と、個人が書類を集め、自分で手続をしようとすると、相当な負担になります。

 

不動産の名義変更であれば、司法書士に依頼すると一連の手続を代わりにやってくれますし、遺産分割協議書の作成や相続一式の手続を依頼する場合であれば、税理士に依頼することで、一連の手続を行ってくれます。

 

気の利いた専門家は、自身が窓口となって、他の専門家に仕事を振るなど、依頼者がいろいろなところへ行ったり来たりすることのないように配慮をしてくれます。

 

ただでさえ気持ちが焦り、混乱する相続の発生後です。

 

自分で何とかしようとするよりは、ぜひ専門家に依頼して、手続を代行した方がスムーズに行きます。

 

また、自分でやろうとして、結局途中で挫折する・・・となると、作業は最初からやり直しになりますし、費用が安くなるわけでもないので、完全な骨折り損のくたびれもうけです。

 

そういう意味でも、最初から依頼する事をお勧めします。

 

相続対策としてよく聞く「暦年贈与(生前贈与)」って?

相続に関する書籍や本を見ると、「暦年贈与」という方法で、相続税を節税できる可能性があることがかかれていることがあります。

 

この暦年贈与に関して、基本的な点をおさえてみましょう。

 

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相続税の負担を減らす、暦年贈与(生前贈与)とは?

税金には様々な種類のものがあるのはご存じかと思いますが、個人間でのお金のやり取りかかるもので「贈与税」というのが存在します。

 

贈与税は、1年1人110万円という基礎控除が存在します。

 

基本的に、1人がもらう金額が110万円までなら、贈与税はかからない仕組みになっています。

 

最近では、110万ジャストだと意図的に見えるので、90万~100万円近くの財産を毎年移すという人もいると聞きます。

 

ただ、単純に90万円~110万円ずつ、子どもなどに財産を移転していけばいいかというと、必ずしもそれがベストとは限りません。

 

これはぜひ専門家に相談いただいた上で検討して欲しい話ですが、「贈与の節税分岐点」という話があります。

 

一定割合までは、110万円の枠を超えても贈与し、贈与税を支払った方がいいというケースも存在します。

 

他にも、税金のことを考えるとそもそも贈与をしない方がいいケースというのも、ないとは言い切れません。

 

本人の財産、年齢、家族構成、親族の有無など様々な要素で、「贈与をこれくらい行うと良い」「この場合は贈与を行わない方がよい」などかわります。

 

そして、相続がいつ発生するか、つまり本人がいつ亡くなるのか、というのは、誰にもわかりません。

 

年を重ねると、相続発生の可能性は高まることはわかるかと思いますが、現代では80代どころか90代、100歳代でも元気な高齢者というのも少なくありません。

 

癌などの病気で、余命がはっきりしているなど特別なケースを除き、相続はいつ発生するかわからないというスタンスで臨んだ方が良いと言えます。

 

贈与した事実は残そう

生前贈与を行った場合、「贈与事実の証明」というのがポイントになります。

 

きちんと贈与しましたよという証明ですが、世間一般の考えだと、「子ども名義にして、毎年110万円預金しておけばいいんじゃないか」という考えが出がちです。

 

しかし、名義だけでは「本当に本人のものか」という客観的な証明はできないのです。

 

意外とあるエピソードで、12歳のころから10年間、110万円ずつ子どもの名義で預金をした、それを解約したところ、税務当局から「これは1,100万円の贈与ではないですか」と指摘され、贈与税を支払う事になった、というケースも伝え聞きます。

 

こういう贈与の問題に関しては、自分自身が本を見ながら、見よう見まねでやるより、税理士に相談し、「どのようにすれば贈与として認められるか」「相続財産から考えて、いくらの額を贈与するのが節税になるか」など、相続全体の視点から、暦年贈与・生前贈与を行うかを判断した方がよいでしょう。

 

特に、贈与をしたという証明については、必要な要素に欠けがあると無効になる可能性もゼロではありません。

 

税理士に相談した上で、このような文書や方式で、このように贈与したという証明を行い、きちんと後々まで書面で残しておくことが、トラブルを防ぐために有効です。

 

生前贈与として税務署に認めてもらうためには、他にも留意すべき点が複数あります。

全てをあげると切りが無いですが、確実に言えるのは、贈与額が年間110万円を超える時は、必ず贈与税の申告が必要になると言うことです。

 

贈与に限らず、節税テクニックを使う場合は、税理士と相談しながらの方が確実です。

 

当然、相談料や税理士報酬はかかりますが、不適切な申告で発生するペナルティ・損失や信用失墜、その他様々なトラブルを考えると、最初から専門家に相談しておくことが確実と言えます。

 

 

 

 

 

相続税の手続期限と、手続遅れのペナルティは?

相続税の基本的な手続期限についてまとめてみましょう。

 

まず、大原則として、「相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月」という定めがあります。

 

10ヶ月も期間があるとなると、時間的にも余裕があるように見えますが、実際の所は四十九日が終わった後から動き始める必要があります。

(本当は、四十九日前から動いても問題はないのですが、年配の方や伝統を重んじる方は、「四十九日も終わっていないのにお金の話をするとはけしからん!」という人もいる可能性は考えた方がよいでしょう。)

 

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相続税の準備は、四十九日が過ぎたら早めに始める

先ほども書いたとおり、相続税の手続は想定以上に時間がかかることが多いです。

 

なぜなら、書類の郵便による往復や各種調査、手続などで、10ヶ月(実質8ヶ月と10日)というのはあっという間に過ぎるからです。

 

また、相続税の申告と同時に、相続税の納付も行う必要があります。

 

これも法定期限は相続税申告と同じ10ヶ月で、相続税を納付しなければならない場合は、相続税の資金準備も必要になります。

 

加えて、相続税の延滞については、最初の2ヶ月は2.6%の延滞税、それを超えると8.9%の、かなり高い利率の加算税がかかります。

 

さらに、過少申告の場合は過少申告加算税が10%~15%、無申告加算税は15%~20%(申告期限内に申告をせず、その後納税者が自主申告をした場合は5%)がかかります。

 

さらに重いのは、「重加算税」で、申告書を提出したが、財産を隠していたり、事実を偽装した場合に35%、申告書を提出せず、財産を隠蔽した場合は40%の税金が課され、特に金額が大きい・悪質な場合は「刑事告発」という形で、逮捕・在宅起訴されたり、裁判に発展する可能性があります。(新聞沙汰になる可能性もあります)

 

このようなデメリットを考えると、相続財産の申告は、専門家に依頼して、正直に行うことが大変重要です。

 

相続税の延納や分割納付などについても、基本的に税理士を通して、税務署に「支払いたいがこのような事情で今すぐの工面はできない、少し待って欲しい」など相談することで、税務署もある程度は配慮してくれる可能性が出てきます。

 

一番問題なのが、対応しない、無視するなどの行動です。

 

国も誠実に申告・納税を行おうとする人に対しては丁寧に対応してくれますが、不誠実な対応・納税回避の姿勢を取るなどすると、非常に厳しい対応を取られる恐れが高まります。

 

納税だけでなく、国・地方自治体相手のことは何ごとも正直に対応するのが一番です。

 

おそらくバレないだろう、ということはなく、国は様々な調査権限を持っていますので、「バレないだろう」は通用しないと考えた方がよいでしょう。

 

税理士の先輩の話でも、「国は様々なお金の動きを把握しているし、何か大きな収入・支出があると、すぐお尋ねが来るくらい、様々なことを把握しているから、正直が一番だよ」という話をされます。

 

また、条件は厳しい場合もありますが、金銭での納付がどうしても難しい場合は、「物納」という方法もあります。

 

お金の代わりに土地家屋を納める、という方法で、必ずしも全てのケースで認められる訳ではありません。

 

金銭でできるだけ納付しようとしたけど、どうしても難しいという場合に、物納という条件を呑んでくれる可能性もありますが、これに関しても個人から依頼するより税理士に依頼した方がスムースと言えます。

 

このように、相続税申告は、時間があるように見えて、実はやることが多く、税金も一緒に納めないといけない、複雑な手続なのです。

 

ですので、四十九日が過ぎたら、ある程度の財産がある家庭は、税理士に相談し、相続対策の準備を先手先手で進めていくことをおすすめします。