正式な相談ではなく、知り合いづてで「ちょっと聞きたいんだけど・・」と意外と相談を受けるのが、「相続が発生したけどお金が引き出せなくなった」という事態です。
特に多いのが、相続人の大半が都会や実家と異なるところに住んでおり、直接金融機関まで赴く時間が取れないというケース。
また、口座引き出しが制限されるケースとしては、地方銀行・信金・信組・JAバンクなど、地域密着型の金融機関が多いです。
上記のような金融機関というのは、地元紙の「お悔やみ欄」というのをよくチェックしています。
お悔やみ欄に利用者の氏名が載っていると、地域密着の金融機関はその口座を凍結するケースが非常に多いです。
なぜなら、相続が発生してから、特定の相続人が遺産の大半を引き出すと、「金融機関は何をしていたんだ」とクレーム・責任を問われるケースもありうるからです。
ただ、相続人の側としては、いざという時にお金を引き出せないのは大変です。
このような事態は以前から課題となっており、平成30年7月から、遺産分割前の預貯金の仮払い制度が始まっています。
遺産分割前の預貯金の仮払い制度とは?
遺産分割が成立する前であっても、相続人が個別に申し立てて、一定額の預金を払い戻しできる制度があります。
- 上限は1金融機関・相続人1人につき150万円ごと(複数の金融機関であればそれぞれ150万円ごと)が上限
- 相続開始時の預貯金の額×3分の1×相続人の法定相続分
以上が基準となります。
ただし、手続を行うには金融機関の求める書類の用意が必要です。
多くのケースで用意することが求められる書類は、
- 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明
- 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明
- 預貯金の払い戻しを行う者の印鑑証明書・書類への実印の押印
となります。
相続人全員の戸籍謄本は、様々な事情で用意が難しいケースもあるでしょう。
その場合、金融機関に事情を説明し、何か代替手段はないかを確認しておくと良いです。
口座が運良く凍結されていなかったとしても、あくまで他の相続人への説明を
金融機関によっては、相続が発生しても、その事情を知らない、相続人から届出がないなどの理由で、口座が凍結されていないケースもあります。
ただ、その場合でも勝手に必要以上のお金を口座から引き出すと、後でもめることにもなりかねません。
引き出しを行う場合は、葬儀費用や引き出した理由をノートなどに記録し、何にどれくらいお金を使ったか説明できるようにしておくことが重要です。
相続トラブルの原因の一つとして、「特定の相続人が勝手に必要以上のお金を引き出し、使途が不透明」というケースがあります。
相続財産は、正式な遺産分割手続を終えるまでは、相続人全員の共有財産であると言えます。
その財産について、他の相続人に断りもなく使ってしまうと、他の相続人としても不快な気分になりかねません。
最初にきちんと理由を話しておけば納得が得られる可能性があるケースでも、何らかの手続を「勝手に行われた」ということになれば、どんな人でもいい気分はしない、もしくは露骨に怒るでしょう。
相続人という、血縁関係などのある立場だからこそ、他人と違って遠慮がありません。
相続が泥沼化しないためにも、引き出す際には、極力他の相続人に、「このような理由で引き出す」ということを伝えるべきです。
ここまでで述べたケース以外でも、相続において「感情」が絡む問題は想像以上にあります。
たまにドラマで相続の話が出ると、「お金の問題じゃない、気持ちの問題なんだ」という言葉などが出ることがありますが、あれはある意味真実というケースも多いのです。
相続手続においては、「法律で決まっているからこの通りに」と押し通そうとすると、ほぼ確実に反発されます。
各方面に配慮する、顔を立てるということをしないと、相続で小銭をもらっても、その後大きな禍根を残すことになりかねませんので、注意することをおすすめします。