遺留分侵害額請求権と遺留分減殺請求権の違い

遺留分侵害額請求権と似た権利で、遺留分減殺請求権があります。

この2つは令和元年7月1に民法が改正されたため、現在は併存しています。

似た部分もある2つの権利ですが、根本的に違う点があるので、見ていきましょう。

 

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遺留分侵害額請求権と遺留分減殺請求権の違い

令和元年7月1日より前の相続の場合

令和元年7月1日に、新しい遺留分侵害額請求というルールが始まっています。
被相続人が亡くなったのが、令和元年7月1より前の場合、遺留分権利者は遺留分減殺請求権を行使することができます。
また、被相続人が亡くなったのがいつかにより、家庭裁判所に申し立てる調停が変わります。

 

なお、遺留分権利者の範囲や、遺留分割合は、遺留分減殺請求権も遺留分侵害額請求権も同じです。

 

遺留分を主張する請求権の違い

  名称 家庭裁判所での調停
令和元年7月1日以降の相続 遺留分侵害額請求権 遺留分侵害額の請求調停
令和元年7月1日より前の相続 遺留分減殺請求権 遺留分減殺請求による物件返還請求権等の調停

 

遺留分減殺請求権は物の返還を求める権利

遺留分侵害額請求権と遺留分減殺請求権の大きな違いは、金銭の支払い請求しか認められないか、物件の返還を求めることができるかという点です。

遺留分侵害額請求権と遺留分減殺請求権の大きな違い

遺留分侵害額請求権 金銭支払い請求権(物件の返還を求めることはできない)
遺留分減殺請求権 物件返還請求権

 

たとえば、被相続人Xの財産は3000万円相当の土地のみ、Xの法定相続人は妻Y、遺留分算定の基礎は3000万円という例で考えます。
Xは友人Aにこの土地を遺贈する遺言を残していました。

 

このケースでは、Yは2分の1の遺留分を害されています。
Yは、この土地の2分の1の権利を自分に戻すように言えるかという点が、遺留分侵害額請求権と遺留分減殺請求権の違いです。

 

Xが令和元年7月1日以降に亡くなったのであれば、Yが行使できるのは遺留分侵害額請求権なので、Aに対して土地の持分を返還するように請求することはできません。
Aに対してできるのは、1500万円相当の金銭を請求することだけです。

 

Xが令和元年7月1日より前に亡くなったのであれば、Yが行使できるのは遺留分減殺請求権なので、Aに対して土地の持分を返還するように請求することができます。

 

対象となる生前贈与・遺贈の範囲

遺留分侵害額請求と遺留分減殺請求の対象は、遺贈または生前贈与です。
遺贈は、遺留分侵害額請求と遺留分減殺請求双方の対象となりますが、生前贈与については、細かな違いがあります。

 

 

対象となる遺贈・生前贈与の範囲

  遺留分侵害額請求 遺留分減殺請求
遺贈
相続人以外の人への生前贈与 相続開始前の1年間の贈与に限る(例外あり)
相続人への生前贈与 婚姻や養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与の場合は、相続開始前10年間におこなわれた贈与に限る(例外あり) 〇(原則)

相続人以外の人への生前贈与は、原則として直近1年のものだけが対象ですが、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた贈与も対象となります。

 

相続人への生計の資本などとして行われた生前贈与は、遺留分侵害額請求と遺留分減殺請求の対象は異なります。
遺留分減殺請求では原則として、相続人への生計の資本などとして行われた生前贈与も対象となります。

 

遺留分侵害額請求は、相続人に対して生計の資本等のために行われた場合、原則として相続開始前10年間の贈与が対象です。

ただし、例外的に、被相続人と相続人双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って、相続開始前10年より前に行われた贈与も遺留分侵害額請求の対象です。

  

遺留分侵害額請求の対象となる財産の計算方法

遺留分侵害額請求の内容や対象がわかりました。
次に、遺留分侵害額請求の対象となる財産の計算方法や注意点を見ていきます。

 

遺留分算定の基礎となる財産の計算方法

遺留分の額を具体的に計算するためには、遺留分算定の基礎となる財産の額を確定しなければなりません。

遺留分算定の基礎となる額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に、その贈与した財産の価額を加えて、さらに債務の全額を控除することで算出することができます。

相続開始時に被相続人が有していた財産だけでなく、生前贈与を足すことができるということです。

なお、前述の通り、生前贈与はすべてが遺留分侵害額請求の対象ではありませんので、加算できる生前贈与は限られています。

 

計算時の注意点

遺留分を算定するにあたっては、遺留分算定の基礎となる財産の額を評価する基準時が問題となります。
たとえば、遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与された不動産が、当時の価格は5000万円、相続開始時は3000万円の価値である場合は、どうなるでしょうか。

 

遺留分権利者にしてみれば、5000万円で評価してほしいところですが、「相続開始時」の価格を基準として、遺留分算定の基礎となる財産の額を評価します

 

また、条件付きの権利または存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人によって鑑定してもらわなければなりません。
そのような権利は、鑑定人の評価にしたがって、価格を決めることになります。

 

なお、被相続人が生前に行った有償行為(売買等)であっても、不相当な対価だったときは、遺留分算定の基礎となる財産の額に算入する場合があります

 

当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知っていたときに限って、対価を控除した額を贈与とみなすことができます。

 

具体的な計算例

たとえば、法定相続人が被相続人Xの子A、Xが全財産を法定相続人以外に遺贈した場合を考えます。
遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与された不動産が、当時の価格は3000万円、相続開始時は5000万円の価値だとしましょう。
また、Xには3000万円の預金と2000万円の債務がありました。
このケースの遺留分算定の基礎となる財産の額は以下の通りです。

 

3000万円の預金(被相続人が相続開始の時において有した財産の価額)+5000万円(対象となる生前贈与)-2000万円(債務)=6000万円(遺留分算定の基礎となる財産の額)

 

なお、配偶者と子の遺留分は全体で2分の1なので、Aの遺留分は全体で2分の1、つまり3000万円です。