信託契約は、委託者が自らの財産を信託財産として指定し、その管理運用を信頼できる誰かに託すことを言います。この仕組みを利用して相続対策をすることも可能です。
ただ、遺言書を作成したケースだと信託契約と矛盾してしまうこともあります。この場合どうなるのか、以下で解説していきます。
家族信託と遺言は併用できる
家族信託と遺言の併用は禁じられていません。
常に契約内容と遺言書の内容が被るとも限りませんし、信託契約で定めていなかった分につき遺言書で指定したり、遺言書で触れていなかった部分につき後から信託契約を締結したりすることも可能です。
そのためこれらは「いずれか一方のみを選択して利用するもの」というわけではないのです。
むしろ上手く併用することでそれぞれの弱点をカバーした財産運用が実現させられます。
遺言よりも家族信託の優先度が高い
前述の通り遺言と家族信託は併用ができますが、それぞれで異なる内容を定めてしまうこともあるでしょう。
このとき、遺言書の内容ではなく家族信託で定めた内容が優先されると考えられています。
というのも、遺言に関する規律は民法という一般法に根拠が置かれており、他方で家族信託は信託法という特別法に根拠が置かれています。
特別法のほうが一般法より優先するのが原則ですので、遺言があっても通常は家族信託が優先されるということは理解しておきましょう。
次に具体的例を見てみましょう。
先に遺言書を作成していたケース
先に遺言書を作成し、その後遺言書を作成した本人が家族信託契約を締結したとしましょう。
当該契約内に遺言書に抵触する規定がある場合、抵触した部分に関しては「遺言を撤回した」という扱いを受けます。
原則通り、家族信託が遺言に優先するのです。ただし、抵触していない部分に関してまでなかったことにはなりません。
家族信託契約締結後に遺言書を作成したケース
上の例とは反対に、遺言書を後から作成した場合を考えてみましょう。
家族信託の存在を知りつつ作成したのであれば、遺言書に記載した内容でルールが上塗りされそうにも思えます。
しかし実際にはそうなりません。原則通り家族信託で取り決めた内容が優先されます。
そこで信託財産に関して取り扱いを変更したいのであれば、遺言書を使って家族信託の内容を変えようとするのではなく、契約内容の変更に向けて受託者と協議を行うようにすべきです。
受益者が委託者と一致しない場合には利害関係が動くことになりますので、相続開始後親族間でトラブルにならないよう、関係者を巻き込んでしっかりと話し合いを行うようにしましょう。