正しい遺言書の書き方、改正民法を踏まえた新しい自筆証書遺言のための仕組みとは?

ここ数年の終活ブームで、遺言書を書いておこうという方も少なくないと思います。

 

厳密にいえば、専門家を通して、公証人役場で「公正証書遺言」を作成するのが理想的ですが、全体の費用で十数万円~数十万円は見込んでおく必要があります。

 

そこで、自分で遺言書を作成しようという「自筆証書遺言」に取り組む人の話も聞くようになりました。

 

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専門家としては、遺言書の標記には厳密さが求められるので、本当は専門家に依頼し手もらった方が望ましいというのが本音です。

 

しかし、唯一、「ともかく簡単なものでいいから、ご夫婦二人でそれぞれ自筆証書遺言を作ってください!」と言いたくなるケースがあります。

 

それは、お子様(実子・戸籍上の養子)がいらっしゃらない、年配のご夫婦の場合です。

 

特に、双方のお父様・お母様がご健在であったり、夫婦のどちらかに兄弟姉妹がいるというパターンだと、前の記事の相続順位の話でも書きましたが、第二順位の父母、第三順位の兄弟姉妹に相続の権利が回ります。

 

ここで、ご両親なりご兄弟・姉妹が理解のある方であればいいのですが、往々にして兄弟姉妹の配偶者が口を出し、「法定相続分の遺産は相続させて」と言ってくるケースがあります。

 

兄弟姉妹は、遺留分がないので、遺言書で、「妻に○○を相続させる」「夫に○○を相続させる」という記載をしておけば、法律通りに兄弟姉妹に財産が相続されてしまうことを防ぐことができます。

 

この点だけは、遺言書の書き方の前にぜひ知っておいていただきたいと思います。

 

シンプルな自筆証書遺言の作り方

 

現在は、財産目録はパソコンで作成して良いこととなり、登記簿や通帳に関してもコピーで良いなど、今後法務局で原本の保管制度が始まるなど、自筆証書遺言の作成方式にも一部変更がありました。

 

ただ、よくこれを誤解して、「遺言書の本文までパソコンで作成してしまう」などのミスもあるので、遺言書そのものの作成はまだ手書きであることに注意が必要です。

 

シンプルな自筆証書遺言の文例

ご夫婦でお子様がいらっしゃらない、兄弟はいるという方に向けた自筆証書遺言の文例です。

まず、土地・家屋の全ての登記簿をお近くの法務局で取得してください。

 

そして、財産が多種多様であれば財産目録を作成、「財産目録に記載」と遺言書で標記してください。

 

遺言書そのものは手書きである必要があり、修正する際にも、訂正印の他に、何字削除、何字加入など付け加える必要があるため、間違えたら最初から書き直した方がよいでしょう。

 

【文例】

遺言書←遺言であると分かるように、最初に必ず遺言書とつける

 

一、遺言者は妻山田花子に次の財産を相続させる←必ず「相続させると言う表現で」

 

1 土地

  所在 東京都多摩市桜ヶ丘○丁目○番○号

  地目 宅地 

  地積291.36平方メートル

2 建物

  所在 東京都多摩市桜ヶ丘○丁目○番○号

  家屋番号○○○番 木造瓦葺2階建て居宅←法務局の登記内容通りに記載

  床面積 1階136平方メートル

      2階67平方メートル

 

二、遺言者は、妻山田花子に次の財産を相続させる

  ○○銀行○○支店 普通預金 口座番号1111111

  ○○銀行○○支店 定期預金 口座番号1234567

 

上記に記載のない財産については、全てを妻山田花子に相続させる(←財産の記載漏れ対策)

 

令和2年4月16日←遺言書の作成日

東京都多摩市桜ヶ丘○丁目○番○号

 

遺言者 山田太郎 印←実印+印鑑証明の添付であることが望ましい

 

このように全て手書きで書いた後、極力実印(認印でも良いとはされているが、実印が争いになりにくい)を押印、封筒に入れ封をして保管してください。

 

また、令和2年7月10日より開始される、法務局の自筆証書遺言書預かり制度を活用するのも非常に有効です。

メリットとしては、

  • 改ざんの可能性がほぼない
  • 家庭裁判所での検認が不要
  • 相続人の誰かが遺言書に関する証明書交付・遺言書閲覧を請求した場合、他の相続人にも遺言書が保管されていることの通知が行くので、特定の相続人が、遺言書が預けられていることを知らなかった、という問題が起こりにくい

などのメリットがあります。

 

下記の点に関して注意する必要があります。

 

  • 法務局が遺言書の内容をチェックするわけではないので、いざというときに開封したら、無効な様式の遺言であったという可能性がある
  • 法定相続人全員の同意があれば、遺言書以外の方法で相続を行うこともできる
  • 保管費用に3,900円、各種証明の閲覧・交付に800円~1,700円が必要
  • 法務局の中でも、主要な局に限られる

 

このような点、特に、「内容に間違いがあっても法務局に受理されてしまう可能性がある点」には注意し、自筆証書遺言の作成に当たっては、細心の注意を払い作成・記載ミス・押印忘れなど漏れがないかを繰り返し確認するようにしましょう。

 

そして、できることなら「取り急ぎ」としての自筆証書遺言を作成した後、専門家に相談し、より精度の高い遺言書、できれば公正証書遺言を作成することをおすすめします。

 

相続税の税務調査で、今知っておくべき事とは?

今回は相続税の税務調査について書きます。

 

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まず、税務署の税務調査でぜひ知っておいてほしいポイントをまず挙げましょう。

  • 税務調査は申告から1~3年後、落ち着いた頃にやってくる
  • よほど悪質ではない限り、電話での事前連絡がある
  • 理想は税理士に申告、税務調査対応をしてもらい、税務調査日に立ち会ってもらう
  • 資料・領収書・記録など相続に関することを、普段、そして相続発生時以後ともにきちんと記録する
  • 税務署は独自のシステムを持っており、全てお見通しと思い、嘘はつかない、また言わなくていいことは言わない

 

特に、四番目の「資料・領収書・記録」の存在は大切です。

 

家族や仲の良い親族内なら、口約束など書面にしなくても・・・、となりますが、税務調査は税務署という「第三者」が行う調査です。

 

この場合、書面が残っていないと、口頭の話だけでは「本当ですか?」と税務署の調査官に思われてしまいます。

 

また、税務署はKSK(国税総合管理システム)というネットワークを構築しており、全納税者の納税額・お金の流れなどを把握しており、ごまかしはききません。また、金融機関の残高・生命保険などの支払いに関しても、税務署の権限で、相続人に知らせることなく取得できます。

 

ただ、国税は、無申告・過少申告に対しては厳しいものの、逆に払いすぎているパターンに関しては、原則何も言ってくることはありません。納税者側がきちんとした根拠をもとに、払いすぎたことを説明する必要があります。

 

そのため、私が言うのも何ですが、判断に迷う場合こそ、納税での過少申告ミスをなくしたり、解釈の違いで必要以上に納税せずにすむよう、税理士にきちんと依頼した方が安心といえます。

 

上記のポイントを踏まえて、税務調査の実務的な流れを紹介していきましょう。

 

税務調査全体の流れは?

税務調査の基本的な流れは、下記の通りです。

  1. 税務署から事前連絡が来て日程調整、同時に税務署が依頼する資料(申告資料・被相続人・相続人の通帳一式やネットバンクの取引明細一式・相続人それぞれの認印など)を用意しておく
  2. 日程調整後、税務調査の日時を決め、被相続人の生前の住居にて相続人全員(重大な病気などやむを得ない場合は除く)が集まり、税理士に税務調査対応を依頼している場合は税理士も同席
  3. 概ね1日かけてヒアリング・通帳や家の中全体の調査、カレンダー・日記・各種記録・金庫内の確認など。場合によっては数回に分けて行われる場合もある
  4. 税務署の方で1ヶ月~1年程度調査、申告内容に修正点があれば修正申告を求められ、無申告加算税(5~20%)や過少申告加算税(10~15%)など追徴課税がされる、額が多く悪質な場合は重加算税(35~40%)や刑事告訴も。

 

怖いのが、相続発生後数年経過してから来るケースも多いため、既に相続したお金を使ってしまって追徴課税が払えない・・・、というケースです。

 

そのため、相続発生後概ね5年(相続税の事項は5年・悪質な場合は7年)は、調査が来ることを念頭に置くことが望ましいと言えます。

 

相続発生前の事前準備も大切

よほど「終活」を意識している人でない限り、だれも亡くなる、相続が発生するという前提の準備はしていません。

 

ですが、元気なうちに、いかに制度を活用し、法律に基づいた節税対策を行うかが重要となります。

 

様々な対策がありますが、それぞれの内容を具体的に挙げていくと時間がかかりますので、大まかな制度名をピックアップします。

 

  • 生命保険の活用(相続時の死亡保険金には法定相続人1人につき500万円までの非課税枠があるため)
  • 小規模宅地等特例(宅地の評価額をケースによっては80%減らせる)
  • 数千万=~億単位のまとまったお金がある場合、現金を不動産にすることで、資産の評価額を下げる
  • 子供が結婚している場合、家の後を継ぐ配偶者を養子にすることで、法定相続人の基礎控除が増やせる(ただし、1人まで。実子がいない場合は2人まで)
  • 暦年課税・相続時精算課税を活用する

など、様々な制度があります。ここに書き切れないくらい制度がありますので、詳しく制度を知りたい方は、後ほどおすすめする書籍に目を通してみてください。

 

もちろん一番の理想は、元気なときから税理士など専門家に相談し、準備を行うことですが、そこまで手間はかけたくないという場合は、できるだけ相続に関して新しい情報がアップデートされた書籍に目を通すことをお勧めします。

 

相続前・相続時に迷ったときに手に取るべき、お勧め本は?

 

書籍・ムック・新書など、相続関係の本は多くありますが、わかりやすさという点でいうと、「プロが教える!失敗しない相続・贈与のすべて 監修 相続サポートセンター(ベンチャーサポート税理士法人)」というムックが、年度ごとに更新されており、図表・イラストも多くわかりやすいと思います。

 

また、週刊ダイヤモンド・週刊東洋経済・プレジデントなど雑誌で相続特集の企画が組まれるケースも最近増えており、こちらも最新のトピックを盛り込んでいるため、おすすめです。

 

いずれにしても、相続に関しては数年前の本は役に立ちません。

 

必ず、最新の書籍なり、知識をアップデートしている専門家の力を借りるなりすることが必要です。

 

 

 

 

代襲相続人における基礎控除について掘り下げてみる

前回の記事では、基礎控除や相続税の計算について書きましたが、当記事では、「代襲相続人の基礎控除」について掘り下げていきたいと思います。

 

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そもそも、代襲相続人とは?

相続手続きの中で、普通の人に取ってややこしく感じられるのが、「代襲相続」という制度だと思います。

 

代襲相続とは、死亡・廃除などの理由で、相続権を失った人に代わり、相続人の孫が、他の相続人と同じ順位で相続人になるということです。

 

これがなぜややこしいかというと、法定相続人には、優先順位が定められているからです。

 

  • 優先順位に関係なく相続人 配偶者(夫・妻)
  • 第一順位 子供(胎児・養子・認知された非嫡出子も含む)
  • 第二順位 父母
  • 第三順位 兄弟姉妹

(なお、兄弟姉妹は、遺留分の対象外です)

この中で、配偶者と、第一順位に当たる人がいれば、その人たちだけで相続することとなり、いない場合に初めて第二順位の父母に相続が回り、さらに第三順位の人が相続する形となります。

 

しかし、この中で第一順位の子供は亡くなったけれども、その子供に孫・ひ孫がいるというケースだと、孫に対し相続権が回り、父母まで相続権が回ってくることはありません。

 

このため、相続人を考える上では、「被相続人が産まれてから亡くなるまでの一式の戸籍謄本を取得」し、念のため、非嫡出子や、離婚した前妻などとの子供・ひ孫・玄孫(やしゃご)、(それぞれ養子・非嫡出子も含む)がいないかを確認することが必要になります。

 

戸籍謄本は、被相続人の本籍地がある市区町村役場へ、窓口か郵送で取り寄せ、本籍地を移している場合は、本籍を移した市区町村役場へも請求する必要がある

戸籍謄本は、まず被相続人(亡くなった方)の本籍地の市区町村役場へ取り寄せます。

 

現在のご時世ですし、郵送で取り寄せるのが無難です。市民課などに確認し、必要書類と、必要額の定額小為替(ゆうちょ銀行で購入できます)、返信用封筒を封入し、請求します。

 

返信された戸籍謄本を確認し、本籍地を市区町村外へ移している場合は、その市区町村

役場へ、改めて本籍地変更後の戸籍謄本を請求する必要があります。

 

そのため、被相続人が本籍地を移した頻度が大きいほど、出生から死亡までをたどるのは大きな負担になります。

 

また、戸籍自体も、年代が古くなるにつれ、手書きの戸籍も増え、専門家でも読むのに一苦労するケースがあります。特に、大正4年から昭和22年までの、現在の形式になる前の戸籍は、非常に細かく、慎重に目を通す必要があります。

 

そのため、戸籍の解読に慣れた専門家に依頼することをできればお勧めします。

 

代襲相続人は、基礎控除の対象になる?そして、代襲相続で気をつけたい、時間が経ってからの遺留分減殺請求とは?

結論から言うと、代襲相続人も、前回述べた、法律で定められた相続人、つまり「法定相続人」に当たりますので、1人当たり600万円の基礎控除が加算されます。

 

改めての復習ですが、法定相続人となり、遺産を受け取る対象となる人が、基礎控除の加算対象になります。

 

仮に、代襲相続者との関係が悪く、代襲相続者が相続欠格や廃除などの手続きをされていない場合、きちんと遺言を作成しておかないと、法定相続分は代襲相続人にも渡ることとなりますし、代襲相続人は直系卑属(直接の子供・孫・ひ孫・玄孫)であるため、遺留分として法定相続分の半分を請求する、遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)というのができてしまいます。

 

遺留分減殺請求に関しては、相続開始後

  • 減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないとき
  • 相続開始から10年経過

した際に、権利が消滅します。

 

逆に言うと、9年経ってから代襲相続者が現れ、遺留分減殺請求を行った場合、これまでの相続手続きを全てやり直すことになってしまいます。

 

もちろん、このようなケースは実例として極めて少ないと思いますが、万一数年なり8,9年経過してから遺留分減殺請求のような事態が発生した場合、全ての手続きをやり直すこととなりかねません。

 

上記のような負担を防ぐには、被相続人が遺言を作成する、既に代襲相続人がいて、その相続人の行動が目に余る場合は、相続対象としないよう「廃除」する手続きを家庭裁判所に行うこととなります。

 

ただし、廃除に関しては、よほどの事情がない限り認められないというのが実情です。

 

そのため、遺留分減殺請求分ほどは代襲相続者に遺し、あとは他の人に相続させるという形が無難ではないかと思います。

 

また、遺言書を作成し、本来は相続させたくないが、最低限の相続はさせること、なぜそのような措置を取ったかも含め、遺言書に盛り込んでおくのも一つの方法といえましょう。

 

世代を問わず、多くの人が法律情報にアクセスできるようになったことで、「遺産は相続しないといわれても、遺留分減殺請求の制度を使えば、法定相続分の半分は請求できるんだぜ」というような、自分に都合の良い情報を集めやすい世の中になっています。

 

確かに、権利の上に眠る者は保護に値するという法格言もありますので、遺留分、つまり自分が最低限もらえる分について主張することは、法律上は何ら悪いことではありません。

 

特に地方や昔からの家の場合、何かと穏便に話を進めるケースが多いですが、現在は価値観も多用し、権利を主張するということに対し、抵抗感もなくなっています。

 

相続発生時や遺言書作成の際には、代襲相続者の存在や遺留分減殺請求の可能性などにも、是非目を向けて欲しいと感じます。

 

 

相続税の法改正を踏まえた、基礎控除と相続税の計算について

相続に関して多くの方が心配される点が、「うちは相続税がかかるの?」という点です。2015年に相続税の改正があったため、都心・都下や名阪・地方都市などでも相続税の対象になるケースが増えました。

 

仕事柄、法人相手に相続のお話をすることが多いですが、今回は個人を対象に、できるだけかみくだいてご説明します。

 

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相続税の計算対象となる相続財産は?

一言で言うと、「相続する全ての財産」が相続税の計算対象です。

現金・預貯金・株券・債権・暗号資産(仮想通貨)・土地建物・貴金属や骨董・美術品・古銭・コレクションなどの資産価値があるものは、全て相続税の対象になります。

 

ただ、実務上は、

  • 知らなかったネットバンクの口座があった!
  • 素人では価値があると思いつかないような骨董品が倉から出てきた
  • 掛け軸が経済的価値のある美術品だった
  • メインバンクだけでなく、県外にへそくり的な銀行口座を作っており、それを忘れていた
  • 古銭や趣味で集めていたアンティーク品が、実は専門の鑑定士に見てもらうと、相当な価値がある物だった

こういうのはほんの一例ですが、意図せず資産にあたるものを報告できていなかった、ということも発生し得ます。

 

もちろん、わざとではないにしても、こういう申告漏れは後から修正申告の対象になります。口座・資産の見落としがないように気をつけることに加え、経済的価値があるもの、ありそうなものは、あらかじめピックアップしておき、税理士に相談するのがよいでしょう。

 

また、可能であれば郵便物・メール・パソコン・スマホなどをチェックするほか、ネット銀行の場合、6桁の数字を表示する「トークン」という小さな機械やカードがありますので、遺品がトークンが見つかれば、ネット銀行との取引があると見た方がよいでしょう。

 

意外ではあるが、相続が発生すると必ず相続税が発生・・・とは限らない

普段相続に関わることのない一般の方だと、「相続発生=相続税がかかる」というイメージを持つ方も時折おられます。

 

確かに、2015年の税制改正で、相続税の課税対象は広がりましたが、必ずしも相続が発生した家庭全てに相続税がかかるというわけではありません。

 

相続税というのは、「3,000万円の基礎控除」というのが存在します。これに加え、「相続人一人につき、プラス600万の基礎控除」というのも存在します。

 

例えば、被相続人(亡くなった方)に、奥様、お子様二人の3人の相続人がいる場合、

3,000万円に、相続人3人×600万円を足した、合計4,800万円が、「基礎控除の基本額」となります。

 

このように、相続する遺産全額に相続税がかかるのではなく、プラスの財産から、一定の控除や葬儀費用・債務などマイナスの財産を差し引いて残った部分に対して課税をするため、ケースによっては、相続税がかからないことも意外とあるのです。

 

課税対象となる遺産の総額を出してみよう

上記の点をふまえて、実際の課税対象になる遺産がいくらになるかをざっくりと計算してみましょう。

 

1.プラスの財産を算出する

遺産そのものの総額に加え、みなし相続財産(保険金・退職金など)、相続時精算課税の対象となる贈与を全て合計します。

 

2.マイナスの財産を差し引く

ここから、借金、いわゆる債務や葬儀費用を合計し、差し引きます。また、お布施は領収書をもらう性質の物ではありませんが、葬儀費用の対象となるので、支払先の寺社・金額・日時のメモを必ず記録しておきましょう。なお、香典は相続財産の対象とならない分、初七日の費用、法事の費用、香典返しも葬儀費用の対象となりません。

 

このマイナスを差し引いて出てきた物を、「正味相続財産」と言います。

 

3.3年以内の贈与を加え、実際の課税価格の合計額を算出する

正味相続財産に3年以内の贈与を合計した額(課税遺産相続)から、基礎控除分を差し引きます。

 

仮に課税遺産相続6,000万円、配偶者、子供2人の環境だと、6,000万円-4,800万円で1,200万円が課税遺産総額となります。

 

各相続人ごとの相続税額を算出する

上記の環境で法定相続通りに行くと、配偶者が2分の1の3,000万円相続、子供2人4分の1の1,500万円相続となります。ここから基礎控除の4,800万円を相続する比率に応じて差し引くと、配偶者600万円、子供2人400万円となります。

 

ここから、それぞれの法定相続人の取得価額に応じた超過累進税率(引用元:国税庁 No.4155 相続税の税率)をかけて、個々の法定相続人の事情に応じた控除を差し引きます。

 

法定相続分に応ずる取得金額

税率控除額

1,000万円以下→税率(以下同じ)0

3,000万円以下→15% 控除額 50万円

5,000万円以下→20% 控除額 200万円

1億円以下→30% 控除額 700万円

2億円以下→40% 控除額 1,700万円

3億円以下→45% 控除額 2,700万円

6億円以下→50% 控除額 4,200万円

6億円超→55% 控除額 7,200万円

 

このように、法定相続人一人一人に分けて計算しますので、法定相続人の数が多いほど、結果として課税額が抑えられるケースも想定できます。

 

ポイントは、法定相続人以外の他の人への相続は、相続税の計算に入らないということです。そのため、あくまで相続税の計算基準は、法定相続人をベースに行うということとなります。

 

また、配偶者に関しては、実際の取得金額が1億6,000万円、または法定相続分である場合は相続税は0となり、それを超える場合、差額部分に初めて相続税が発生することを承知しておく必要があります。

 

代襲相続人における基礎控除の話は、次の記事でもう少し詳しく説明しますね。

 

多くの方が、「相続税の計算ってややこしい・・」と思われたかもしれません。ただ、専門家は実務を通して、様々なノウハウや計算方法を体得しておりますので、相続のプロに相談することが、何かとスムースではないかと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遺言書作成の際に気をつけたい、注意すべきポイントとは?

以前からよく仕事で、自筆証書遺言のチェックを依頼されることがあります。

 

自分で書いていると気がつかないですが、遺言書を作成する上で、意外と行ってしまう間違いというのは多くあります。

 

今回は、このような自筆証書遺言作成時に、注意すべきポイントについてまとめます。

 

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遺言書を全てパソコンで作成してしまう

遺言書の財産目録については、パソコンで作成することが認められるようになりました。

 

ただ、遺言書本体は今でも自筆で書く必要があります。意外とこの点に関して誤解があるので、「遺言書そのものは自筆」ということはご注意ください。

 

遺言書のタイトル・日付・署名・捺印などを忘れる

遺言書を作成する際は、タイトルに「遺言書」など、遺言であることがわかる表記を入れておく必要があります。また、作成の日付・署名・捺印(認印で構わないが、実印だとより望ましい)などの抜け落ちにも注意する必要があります。

 

相続させる財産を具体的に書いていない

例えば、「自宅・田畑は跡を継ぐ長男に譲る」というような書き方はNGで、「長男 ○○○○ (昭和○○年○月○日生)に、下記の土地・建物を相続させる」など、どの財産を具体的に相続させるのか書く必要があります。

 

相続に関する書籍の文例集を見ながら、状況に応じた適切な文章を作成するよう、心がけてください。

 

自筆証書遺言書は、書き間違えたら最初から書き直す。修正液や訂正印はNG

自筆証書遺言では、表記を間違えた場合、間違えた部分に線を引き、法務省が提示する修正方法で訂正する必要があります。この中で、下に「上記三中、二字削除二字追加 法務五郎」のように、どの項目を何字削除、何字追加したかを追記し、最後に署名をする必要があります。

 

ただ、この修正方法の場合、下記の注釈忘れ、署名忘れなどを行いがちですので、最初から遺言書全体を書き直した方が安全と言えます。

 

読める字で書く

「そんなの当たり前だよ!」と思われがちですが、人によっては、達筆過ぎたり、個性的な文字を書かれたり、早く書くことを優先されるばかりに、普通の人には不明瞭な文字で書かれた自筆証書遺言があるケースもあります。

 

字の上手・下手と言うより、焦らず落ち着いて、読める字で書くよう注意してください。

 

財産目録・預貯金口座・不動産の登記事項証明書のコピーに自署の署名・捺印を入れ忘れる

財産目録はパソコンで、預貯金口座・不動産の登記事項証明書は写しがあれば、自署で記載する必要はありません。しかし、財産目録・各証明書のコピーには全て、遺言作成者の自筆署名と捺印が必要です。

 

遺言書本体にだけ署名・捺印を行えば良いと思いがちですが、付属書類にも全て署名・捺印が必要ですので、忘れないようご注意ください。

 

遺言書に付言事項を付け忘れる

自筆証書遺言を作成する際にありがちなのが、財産の分け方だけを書いて、なぜこのような分け方にしたのか、理由を書いていないため、相続人同士が不仲になるケースです。

 

事情があり、特定の人に多く相続させたり、逆に特定の人に対する相続額を少なくする場合は、なぜそのような判断をしたのかという理由を「付言事項」として付け加えることをお勧めします。

 

また、あわせて相続人・家族・親族・関係者への感謝の言葉も含めておくと、より相続人の方たちにとって受け入れやすくなるでしょう。

 

遺言書が絶対ではない

遺言書は、法定相続人全員(法定相続人以外の遺贈を受ける人がいれば、その人も含む)の同意があれば、遺言書と異なる内容の相続を行うことができます。

 

ただ、そうなると遺言書を書いた意味がなくなってしまいますので、自筆証書遺言を作成する際は、法定相続人や遺贈を受ける人が納得のできる内容にしておくことが大切です。

 

遺留分侵害に気をつける

配偶者・子供・親は「遺留分」をそれぞれ有しています。(兄弟姉妹には遺留分なし)遺留分の額については、配偶者・子供・父母の存在によりケース・バイ・ケースで異なりますので、ここでは省略します。法的に最低限受け取れる割合という意味合いで捉えておいてください。

 

例えば、子供に一人、相続させたくない子供がいて、その子供に相続させない遺言書を作成した場合でも、もしその子供が相続があることを知ってから1年か、相続した日から10年以内であれば、遺留分減殺請求(今後は遺留分侵害額請求)を行い、遺留分を請求できてしまいます。

 

これまでは、現金の他土地などで現金の代わりとすることができましたが、民法の改正により、全て現金で支払う必要が出てきます。

 

以上のように、遺言書を作成する際は、書き方から相続人等の心情まで、様々な面に配慮する必要があります。

 

一般の人が遺言書を作成すると、上記のようなミスが出てきてしまう恐れがあります。

できれば専門家に遺言作成を依頼することをお勧めしますが、どうしても自分でつくりたい場合は、一から作成するのではなくひな型などをベースに作成を進める方がミスも減るかと思います。

 

遺言書のひな型や書き方については、遺言書パーフェクトガイドで公開されていますので、ダウンロードしてみてはいかがでしょうか。

 

遺言書のひな型(Wordファイル)

 

 

また、法務局で自筆証書遺言を保管してくれる制度も令和2年7月よりスタートしますが、法務局で内容のチェックはしませんので、問題がある遺言でもそのまま預かられてしまい、いざ開封してみると、遺言書の要件を満たしていない・・・という可能性もあります。

 

より確実なのは、専門家のアドバイスを踏まえ、公証人役場で公正証書遺言を作成することと言えます。

 

プロフィール

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専門の税理士法人(経営コンサルティングファーム)で、相続にかかる業務・事業承継など複数の専門業務に関与しております。

 

相続に関し、手がけた件数は主業務では数十件、共同で行った案件も含めると、100件以上の担当になるかと思います。

相続に関して、相続税法の改正は非常に多くの人に影響を与えており、制度変更に対する注意喚起と、長期的な目線での相続対策が必要と感じています。

ご存じの通り、数年前より相続税の課税基準が、以前の基礎控除5,000万円+法定相続人1人1,000万円から、基礎控除3,000万円+法定相続人1人×600万円へと引き下げられました。

 

このことで、都内で一戸建て・マンションを所有しているケースは大半の場合で相続税申告の対象となる可能性が高くなり、地方都市でも同様と言えます。

また、それ以外の一般家庭でもかなりのケースで相続対策や相続税の適正な申告が必要となる事例も見てきました。「うちは普通の家庭だから、相続は関係ない」という言葉は、けして言えなくなりました。(加えて、相続税とは別に、相続人間のトラブルも・・・・)

実際、業務に携わる中で残念に感じたことがあります。

 

それは、「専門家に頼まず、自分で相続手続きをして節約しようとしたばかりに、不適切な申告内容になり、追徴課税などを課され、これなら最初から専門家に頼んでおけば・・・」というケースを、結構な頻度で見聞きすることです。

 

相続税申告について、うちは関係ないと思い込んでいた、知らなかった、自分でなんとかなると思って本を見ながら手続きを行ったなどのケースで、数年後に調査が来て追徴課税、結局専門家に依頼しておけば良かったというケースも・・・・

 

また、なかなか現在外に出にくい状況だからこそ、普通の人にとって、相続の情報を集めにくい状況があります。ですので、多くの方に相続の「基本的な部分」をわかりやすく、専門用語を省きお伝えすることが極めて重要と感じています。

 

当然、当職の職務上、守秘義務などありますので、実例をお伝えすることはできません。

事例を書く場合でも、あくまで一般的なことなど混ぜ、その中に経験などを交え、問題なく公開できる形で皆さんにお伝えしていければと思います。

 

また、法人相手では、事業承継を中心に、企業経営者の支援を行ってまいりました。

事業承継とは、まさに経営を次の世代へ引き継ぐための重要な取り組みで、長期的な目線が要されます。

 

事業承継をスムースに進めるためには、事前準備が必要であり、時には1年~3年の長期的な目線で取り組む必要も出てきます。

経営者にとって、事業とは、自分が手塩にかけて育てた子供のようなものです。事業を適正に継承するには、子供と同じで、「教え、対策を事前に練っておくこと」が大事です。継承者へのレクチャーも必要ですし、税務・相続回りの対策も必要になります。

 

特に、成長した会社にとっては、自社株の額面上の評価額が高騰すると、他の経営に関与しない相続人とのバランスなども含め、慎重に考えることがとても重要になります。

もちろん、自社内や外部のステークスホルダーなどの理解や、事業の承継者自身が、「自分が事業を引き継ぐんだ」という強い自覚がないと、事業承継はスムースに進みません。

 

こちらの部分についても、触れられる機会があれば、いろいろわかりやすく解説していきます。

また「会社の終活」である、スムーズな廃業や事業売却、経営者保証ガイドラインを活用した、信用情報に影響を及ぼさず、自宅等も確保しながら事業をたためる方法や、経営者補償・連帯保証を外す方法などについても、機会があれば扱いたいと思っています。

 

税金は、正しく申告する義務があるとともに、ルールの中で「適切な節税」を考えることが大切です。税金の制度・税体系全体が、個人などではカバーしきれないくらいの複雑さです。

払うべき物は支払うと共に、適切な節税を意識することと、同時に税金を払いながら内部留保、つまり社内に現預金を蓄積していくことのバランスが大切です。

 

節税にばかり走って、税金を納める額を少なくしたばかりに、現預金がない、というのは危険な状態です。

 

2020年の新型肺炎問題で、多くの企業が自粛要請を受けました。

ここでキャッシュや、銀行との融資取引実績があり、信頼を得ている状況であれば、余裕を持って持ちこたえることができますが、キャッシュもない、借入もできないという状況だと、一気に全てが崩れてしまいます。

 

このような、生き残るための経営についても、時折触れられればと思います。

 

当ブログでは上記を踏まえ、

 

・個人の相続の注意点やスムースにするコツ、専門家の活用方法

・企業の事業承継、相続の問題

・会社を継続的に運営するために大切な、お金・税金・節税との付き合い

・会社を穏やかに終わらせる「法人の終活」

 

などを取り上げ、特に初期は個人の相続について、まだまだ人々の相続に対する認識の幅が様々であるため、いろいろな人に「相続」を知っていただけるよう情報発信をしていきたいと思います。