ここ数年の終活ブームで、遺言書を書いておこうという方も少なくないと思います。
厳密にいえば、専門家を通して、公証人役場で「公正証書遺言」を作成するのが理想的ですが、全体の費用で十数万円~数十万円は見込んでおく必要があります。
そこで、自分で遺言書を作成しようという「自筆証書遺言」に取り組む人の話も聞くようになりました。
専門家としては、遺言書の標記には厳密さが求められるので、本当は専門家に依頼し手もらった方が望ましいというのが本音です。
しかし、唯一、「ともかく簡単なものでいいから、ご夫婦二人でそれぞれ自筆証書遺言を作ってください!」と言いたくなるケースがあります。
それは、お子様(実子・戸籍上の養子)がいらっしゃらない、年配のご夫婦の場合です。
特に、双方のお父様・お母様がご健在であったり、夫婦のどちらかに兄弟姉妹がいるというパターンだと、前の記事の相続順位の話でも書きましたが、第二順位の父母、第三順位の兄弟姉妹に相続の権利が回ります。
ここで、ご両親なりご兄弟・姉妹が理解のある方であればいいのですが、往々にして兄弟姉妹の配偶者が口を出し、「法定相続分の遺産は相続させて」と言ってくるケースがあります。
兄弟姉妹は、遺留分がないので、遺言書で、「妻に○○を相続させる」「夫に○○を相続させる」という記載をしておけば、法律通りに兄弟姉妹に財産が相続されてしまうことを防ぐことができます。
この点だけは、遺言書の書き方の前にぜひ知っておいていただきたいと思います。
シンプルな自筆証書遺言の作り方
現在は、財産目録はパソコンで作成して良いこととなり、登記簿や通帳に関してもコピーで良いなど、今後法務局で原本の保管制度が始まるなど、自筆証書遺言の作成方式にも一部変更がありました。
ただ、よくこれを誤解して、「遺言書の本文までパソコンで作成してしまう」などのミスもあるので、遺言書そのものの作成はまだ手書きであることに注意が必要です。
シンプルな自筆証書遺言の文例
ご夫婦でお子様がいらっしゃらない、兄弟はいるという方に向けた自筆証書遺言の文例です。
まず、土地・家屋の全ての登記簿をお近くの法務局で取得してください。
そして、財産が多種多様であれば財産目録を作成、「財産目録に記載」と遺言書で標記してください。
遺言書そのものは手書きである必要があり、修正する際にも、訂正印の他に、何字削除、何字加入など付け加える必要があるため、間違えたら最初から書き直した方がよいでしょう。
【文例】
遺言書←遺言であると分かるように、最初に必ず遺言書とつける
一、遺言者は妻山田花子に次の財産を相続させる←必ず「相続させると言う表現で」
1 土地
所在 東京都多摩市桜ヶ丘○丁目○番○号
地目 宅地
地積291.36平方メートル
2 建物
所在 東京都多摩市桜ヶ丘○丁目○番○号
家屋番号○○○番 木造瓦葺2階建て居宅←法務局の登記内容通りに記載
床面積 1階136平方メートル
2階67平方メートル
二、遺言者は、妻山田花子に次の財産を相続させる
○○銀行○○支店 普通預金 口座番号1111111
○○銀行○○支店 定期預金 口座番号1234567
上記に記載のない財産については、全てを妻山田花子に相続させる(←財産の記載漏れ対策)
令和2年4月16日←遺言書の作成日
東京都多摩市桜ヶ丘○丁目○番○号
遺言者 山田太郎 印←実印+印鑑証明の添付であることが望ましい
このように全て手書きで書いた後、極力実印(認印でも良いとはされているが、実印が争いになりにくい)を押印、封筒に入れ封をして保管してください。
また、令和2年7月10日より開始される、法務局の自筆証書遺言書預かり制度を活用するのも非常に有効です。
メリットとしては、
- 改ざんの可能性がほぼない
- 家庭裁判所での検認が不要
- 相続人の誰かが遺言書に関する証明書交付・遺言書閲覧を請求した場合、他の相続人にも遺言書が保管されていることの通知が行くので、特定の相続人が、遺言書が預けられていることを知らなかった、という問題が起こりにくい
などのメリットがあります。
下記の点に関して注意する必要があります。
- 法務局が遺言書の内容をチェックするわけではないので、いざというときに開封したら、無効な様式の遺言であったという可能性がある
- 法定相続人全員の同意があれば、遺言書以外の方法で相続を行うこともできる
- 保管費用に3,900円、各種証明の閲覧・交付に800円~1,700円が必要
- 法務局の中でも、主要な局に限られる
このような点、特に、「内容に間違いがあっても法務局に受理されてしまう可能性がある点」には注意し、自筆証書遺言の作成に当たっては、細心の注意を払い作成・記載ミス・押印忘れなど漏れがないかを繰り返し確認するようにしましょう。
そして、できることなら「取り急ぎ」としての自筆証書遺言を作成した後、専門家に相談し、より精度の高い遺言書、できれば公正証書遺言を作成することをおすすめします。