相続税の法改正を踏まえた、基礎控除と相続税の計算について

相続に関して多くの方が心配される点が、「うちは相続税がかかるの?」という点です。2015年に相続税の改正があったため、都心・都下や名阪・地方都市などでも相続税の対象になるケースが増えました。

 

仕事柄、法人相手に相続のお話をすることが多いですが、今回は個人を対象に、できるだけかみくだいてご説明します。

 

f:id:sozokufighter:20200423170043j:plain

 

相続税の計算対象となる相続財産は?

一言で言うと、「相続する全ての財産」が相続税の計算対象です。

現金・預貯金・株券・債権・暗号資産(仮想通貨)・土地建物・貴金属や骨董・美術品・古銭・コレクションなどの資産価値があるものは、全て相続税の対象になります。

 

ただ、実務上は、

  • 知らなかったネットバンクの口座があった!
  • 素人では価値があると思いつかないような骨董品が倉から出てきた
  • 掛け軸が経済的価値のある美術品だった
  • メインバンクだけでなく、県外にへそくり的な銀行口座を作っており、それを忘れていた
  • 古銭や趣味で集めていたアンティーク品が、実は専門の鑑定士に見てもらうと、相当な価値がある物だった

こういうのはほんの一例ですが、意図せず資産にあたるものを報告できていなかった、ということも発生し得ます。

 

もちろん、わざとではないにしても、こういう申告漏れは後から修正申告の対象になります。口座・資産の見落としがないように気をつけることに加え、経済的価値があるもの、ありそうなものは、あらかじめピックアップしておき、税理士に相談するのがよいでしょう。

 

また、可能であれば郵便物・メール・パソコン・スマホなどをチェックするほか、ネット銀行の場合、6桁の数字を表示する「トークン」という小さな機械やカードがありますので、遺品がトークンが見つかれば、ネット銀行との取引があると見た方がよいでしょう。

 

意外ではあるが、相続が発生すると必ず相続税が発生・・・とは限らない

普段相続に関わることのない一般の方だと、「相続発生=相続税がかかる」というイメージを持つ方も時折おられます。

 

確かに、2015年の税制改正で、相続税の課税対象は広がりましたが、必ずしも相続が発生した家庭全てに相続税がかかるというわけではありません。

 

相続税というのは、「3,000万円の基礎控除」というのが存在します。これに加え、「相続人一人につき、プラス600万の基礎控除」というのも存在します。

 

例えば、被相続人(亡くなった方)に、奥様、お子様二人の3人の相続人がいる場合、

3,000万円に、相続人3人×600万円を足した、合計4,800万円が、「基礎控除の基本額」となります。

 

このように、相続する遺産全額に相続税がかかるのではなく、プラスの財産から、一定の控除や葬儀費用・債務などマイナスの財産を差し引いて残った部分に対して課税をするため、ケースによっては、相続税がかからないことも意外とあるのです。

 

課税対象となる遺産の総額を出してみよう

上記の点をふまえて、実際の課税対象になる遺産がいくらになるかをざっくりと計算してみましょう。

 

1.プラスの財産を算出する

遺産そのものの総額に加え、みなし相続財産(保険金・退職金など)、相続時精算課税の対象となる贈与を全て合計します。

 

2.マイナスの財産を差し引く

ここから、借金、いわゆる債務や葬儀費用を合計し、差し引きます。また、お布施は領収書をもらう性質の物ではありませんが、葬儀費用の対象となるので、支払先の寺社・金額・日時のメモを必ず記録しておきましょう。なお、香典は相続財産の対象とならない分、初七日の費用、法事の費用、香典返しも葬儀費用の対象となりません。

 

このマイナスを差し引いて出てきた物を、「正味相続財産」と言います。

 

3.3年以内の贈与を加え、実際の課税価格の合計額を算出する

正味相続財産に3年以内の贈与を合計した額(課税遺産相続)から、基礎控除分を差し引きます。

 

仮に課税遺産相続6,000万円、配偶者、子供2人の環境だと、6,000万円-4,800万円で1,200万円が課税遺産総額となります。

 

各相続人ごとの相続税額を算出する

上記の環境で法定相続通りに行くと、配偶者が2分の1の3,000万円相続、子供2人4分の1の1,500万円相続となります。ここから基礎控除の4,800万円を相続する比率に応じて差し引くと、配偶者600万円、子供2人400万円となります。

 

ここから、それぞれの法定相続人の取得価額に応じた超過累進税率(引用元:国税庁 No.4155 相続税の税率)をかけて、個々の法定相続人の事情に応じた控除を差し引きます。

 

法定相続分に応ずる取得金額

税率控除額

1,000万円以下→税率(以下同じ)0

3,000万円以下→15% 控除額 50万円

5,000万円以下→20% 控除額 200万円

1億円以下→30% 控除額 700万円

2億円以下→40% 控除額 1,700万円

3億円以下→45% 控除額 2,700万円

6億円以下→50% 控除額 4,200万円

6億円超→55% 控除額 7,200万円

 

このように、法定相続人一人一人に分けて計算しますので、法定相続人の数が多いほど、結果として課税額が抑えられるケースも想定できます。

 

ポイントは、法定相続人以外の他の人への相続は、相続税の計算に入らないということです。そのため、あくまで相続税の計算基準は、法定相続人をベースに行うということとなります。

 

また、配偶者に関しては、実際の取得金額が1億6,000万円、または法定相続分である場合は相続税は0となり、それを超える場合、差額部分に初めて相続税が発生することを承知しておく必要があります。

 

代襲相続人における基礎控除の話は、次の記事でもう少し詳しく説明しますね。

 

多くの方が、「相続税の計算ってややこしい・・」と思われたかもしれません。ただ、専門家は実務を通して、様々なノウハウや計算方法を体得しておりますので、相続のプロに相談することが、何かとスムースではないかと思います。