自筆証書遺言書の開封はNG、家庭裁判所での検認手続必要。今後自筆証書遺言書でも検認不要になる新制度も

これはほんとうにうっかりや興味本位などでやってしまう人が多そうなので、事前に警鐘を鳴らしておきますが、「自筆証書遺言書の開封は絶対ダメ」です。

 

勝手に開封すると、自筆証書遺言書を入れ替えたり改ざんしたと疑われる、開封者に5万円以下の過料が課せられる恐れがあるからです。(なお、開封した場合でも、自筆証書遺言書の入れ替えや変造・偽造などが行われていない限りは、自筆遺言書の効力は有効です)

 

必ず、家庭裁判所で「遺言書の検認」という手続きを行いましょう。

(なお、公正証書遺言書の場合は、家庭裁判所での検認手続きは不要です。そのため、多くの専門家は公正証書遺言を勧めている傾向です)

 

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「遺言書の検認」とは?

検認手続きとは、家庭裁判所が相続人全員に遺言書の存在を知らせ、遺言書に変造・偽造・不審な点がないかを確認する手続きです。

 

検認の手続きは厳密です。

  1. 家庭裁判所に検認の申立を行う(故人の住所地を管轄する家庭裁判所)
  2. 検認に必要な収入印紙800円と郵便切手(家庭裁判所が指定)を、家庭裁判所に確認の上用意
  3. 検認申立書・遺言者の出生から死亡までの全ての戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本を準備
  4. 家庭裁判所に連絡し、必要書類の送付を行う
  5. 家庭裁判所より検認を行う日が郵送で通知される(相続人全員の出席が原則だが、やむを得ない場合は欠席も可。しかし、最低誰か一人は出席する必要あり)
  6. 予定期日に家庭裁判所で裁判所の検認を受ける。遺言書・認印、その他指定物を忘れないこと
  7. 裁判官が相続人立ち会いのもと、遺言書を開封し、状態・内容・不審な点がないかを確認
  8. 立ち会った相続人の同意が得られれば、「検認済証明書」の発行を申請(収入印紙150円と申立人の印鑑が必要)

 

と言うように、遺言の検認は非常に手間がかかります。それもあってか、令和2年7月10日から、法務局における自筆証書遺言書保管制度が始まるわけです。

 

法務局に自筆証書遺言を預けておくことで、(内容が適正化についてはチェックしない仕組みとなっていますが)家庭裁判所での遺言の検認手続きが不要となり、1ヶ月以上の時間と、相続人が開封に立ち会う手間をなくすことができます。

 

ただ、当面の間は、自筆証書遺言を自分で保管する方法と、法務局で保管する方法は、どちらも利用される形となる可能性が高いと推定します。

 

そもそも、今の社会状況(具体的には書きません)だと、法務局に行って手続きをしようとか、そもそも、「自筆証書遺言保管制度」に関する情報自体入ってきませんよね・・・

 

ですので、当面は、新制度の認知は進まないという前提で考えておいた方がよいかと思います。

 

遺言書、見つけたらどうする?

改めての復習になりますが、遺言書を見つけても、自分で勝手には開けないことです。

例外として、封をしていない自筆証書遺言については、開けたかどうかがそもそもわかりませんし、公正証書遺言の場合は、検認手続きは不要のため、開けたから過料が・・ということこそありません。

 

しかし、相続人同士での心情の問題として、封をしていない遺言書であっても、やはり見つけたら極力相続人全員で確認した方がよいでしょう。

 

そして封がしてあれば、必ず家庭裁判所に連絡し、検認の手続きについて指示を仰ぐこと。

 

自筆証書遺言・公正証書遺言など遺言の種別を問わず、法定相続人及び遺贈の指定を受けた人全員が同意すれば、遺言書と違う分け方もできる

意外な注意点として、原則としては法定相続人、また遺言で法定相続人以外への遺贈がある場合は、その遺贈を受ける当事者も含め、全員の合意(遺産分割協議書など)があれば、遺言書と違った分け方をしても問題はありません。

 

もちろん、遺言作成者の本旨に沿うことが理想ですが、様々な事情で、遺言通りの相続を行うことが望ましくないケースもあるかもしれません。

 

その場合は、遺言書と異なる相続・遺贈を行って問題はないのです。

 

ただ、相続人・遺贈の対象者に対し、「この遺言書の内容でなくてもいいよね」と思わせてしまうような遺言であっては、何のために作成したのかということになってしまいます。

 

遺言を作成した気持ち・理由をきちんと伝えるためにも、遺産分割の詳細だけでなく、なぜこのような分割内容にしたかという点や、相続・遺贈対象者に対する一人一人への言葉を「付言事項」として遺言書にしっかりと盛り込み、相続人など当事者の納得を得られるような配慮も必要でしょう。

 

実務上、一般家庭ではめったにみられない、イレギュラーな秘密証書遺言

余談になりますが、遺言作成者が自分で作成、公証人役場で手続き、本人が保管する「秘密証書遺言」というのも存在します。こちらに関しては、公正証書となっていますが、封がしてあれば家庭裁判所での検認は必要となります。

 

基本的にはお目にかかることはないかと思いますが、いずれにせよ封がしてある遺言書は、必ず家庭裁判所に検認してもらうということを抑えておいてください。