当ブログでは、実務で得た経験や、改正民法も踏まえ、個人相続や事業承継などについて扱っていきます。
今回はトピックとして、改正民法を踏まえた遺産分割の注意点についてまとめていきます。
まず、「遺産分割」という言葉の定義ですが、「相続が発生(=親などが逝去)したときに、相続人に当たる人たちが話し合い、遺産の分け方を決める話し合い」と定義できます。
遺産分割・もめる家、もめない家
この遺産分割の手続きに関しては、スムースに行くケースもあれば、もめるケースも少なからずあります。
例えば、地方の経営者の場合、株式などの問題もあるので、業務の後継者が株や会社の経営を引き継ぎ、他の親族はお金など、いわゆる「ハンコ代」として一定の金額を受領することが多い傾向です。
逆に都市の場合や、地方でも、相続人の配偶者(夫・妻)に権利意識が強いと、遺産分割が難航するケースがあります。
例えば、会社経営の夫が死去、妻と長男、次男が相続人となり、長男が会社の経営を引き継いだとします。しかし、現金分はさほど多くなく、財産の大半が土地家屋と会社の株式という場合、もし配偶者が口出しをしてくると、一気に相続は難航します。
なぜなら、昔は法律情報にアクセスしにくく、ある意味兄弟間であれば「お互い様」という意識がありました。しかし現在の場合、ネットで調べると、様々な法律情報が出てきます。
そのため、ネットで得た断片的な情報を元に、「遺留分(遺言書の内容等にかかわらず、相続人が請求できる相続分)だけでもしっかりもらわないと!」という考えを持つ人は増えています。
確かに法格言で、「権利の上に眠るものは保護に値せず」という言葉があります。
一方、遺産分割においては様々な感情が絡むのも事実です。小さい頃から一緒に過ごした兄弟と、顔を合わせることもめったにない配偶者では、前者は「できるだけ穏便に遺産分割をしたい」、後者は「貰えるものはしっかりともらいたい」という気持ちになるのは仕方ないでしょう。
遺言書は絶対ではない
まず、遺言書の内容を覆すことはできないが、「遺言書の内容が絶対ではない」ということは、強く強調します。(なお、遺言書を作成者以外が書き換えることは犯罪となり、相続人としての地位を失うこともあります)
なぜ遺言書の内容が絶対ではないかというと、
- 相続人全員の合意があれば、遺言書と異なる内容で遺産分割を行っても良い
- 仮に、特定の財産を、特定の第三者に相続させる場合でも、子供・親に関しては「遺留分」として、法定相続分の2分の1を、最低限の権利として主張できる
という理由があるためです。
特に事業承継と相続が同時に発生する場合は大変
特に相続でもめるのが、企業経営者・個人事業主を行っている人が亡くなった場合です。
企業経営者の場合は、企業の株主(所有者)であり、経営にも代表取締役や会長などなどの形で深く関与しているケースが多いです。
個人事業主の場合も複雑です。事業における財産や借入、業務に関する許認可、従業員、取引先などとの契約、特許権など様々な権利が相続対象になります。
必然的に、評価金額が大きくなるため、数字の上では「事業を継続する人とそれ以外の人」で不公平感が出ることは否めないでしょう。
実務では、このような「引き継ぐ人はたくさん貰えて、そうでない人はもらえない」という事を防ぐために、「代償金」という形でまとまったお金(一括で用意できない場合は分割)を支払うこともあります。
ここで、相続人同士の話がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停・審判など長引く形もあります。弁護士に依頼することになるため、数十万以上の費用もかかることとなります。
期間も当然通常の相続より伸びますし、相続人間の関係悪化と出費増など、良い結果にはつながりにくいというのが率直なところです。
改正民法で自筆証書遺言が作りやすくなったために想定される、遺産分割トラブル
民法の改正により、自分で作成する遺言、いわゆる「自筆証書遺言」の作成がパソコンなどででき、法務局に原本を保管することもできるようになりました。
ただ、私個人としては、専門家の目を通していない自筆証書遺言の増加が、遺産分割のトラブルを誘発するのではないかと懸念しています。
これまでは、遺言書を全て自分で書き、自宅に保管するという形式でしたので、「だったらちゃんと専門家に関与してもらい、公正証書遺言を公証人役場で作成しよう」という方も多かったのですが、公証人役場で公正証書遺言を作成すると、数万から十数万円、時にはそれ以上の費用がかかります。参考:日本公証人連合会(公証人役場での遺言作成費用)
今回の民法改正で自筆証書遺言の敷居が低くなると、「お金もかかりにくく、書き換えも自由にできる自筆証書にシフトする流れもでてくるかと思います。
しかし、遺言には厳格な様式が定められていることに変わりはありません。そのため、専門家の目が入らず、結果として遺言の様式として不適切な内容になってしまう恐れがあります。
ですので、専門家としては、遺言を従来通り公正証書遺言で作成、原案も専門家の確認を経ることが、結果として遺産分割をスムースにできると考えます。