2020年7月の民法改正による相続ルールの見直しについて、今回も説明しますね。
まず、遺留分という言葉について、なじみがない人もいらっしゃると思うので、簡単に説明します。
遺留分とは?
遺留分とは、配偶者と子供(子供がいない場合は親)が、一定の割合の預貯金・不動産などを、遺言などの内容にかかわらず請求できる権利です。遺留分は、黙っていてももらえるものではなく、遺留分を有する側から、「遺留分減殺(げんさい)請求」という手続きを行わないといけません。
ここからより詳しく説明していこうとすると、長くなるので、ざっくりと「配偶者・子供は相続財産の一部を遺言にかかわらずもらえる権利があるんだ、子供がいなければ両親が権利を持つんだ」ぐらいに抑えておいて下さい。(ちなみに、兄弟姉妹は遺留分がありません)
遺留分は、土地建物などの共有ではなく、お金で直接支払って!という形に変わる
これまでは、遺留分に関して、現金ではなく、土地建物の一定割合を相続させることでが可能でした。
しかし、2020年7月からは、「遺留分の支払いは現金で!土地家屋はNG」という形になります。
ただ、遺贈や贈与を受けた側からすると、遺留分の請求者から「いきなり現金で払って!」と言われても、すぐに対応できるとは限りません。一番大変なのが、会社の土地建物など不動産の資産は多いけど、現預金は少ないというパターン。
この場合は、裁判所に対し、「すぐに金銭を用意することはできないので、支払期限の猶予を求める」という手続きができます。
これも法務省のパンフレットの事例を元に説明してみましょう。
経営者(ここでは被相続人にあたる)が亡くなり、妻は既に死去しており、相続人は長男・長女の二人の状態。
被相続人の財産として、評価額1億2千万円の土地と、預金が1,200万円あったとします。
被相続人は、「私の事業を手伝っていた長男に会社の土地建物全て(評価額1億2,000万円相当)を、長女には預金1,200万円を相続させる」という遺言を作成。
このケースで、妻が亡くなっており、相続人は子供2人という状態だと、遺留分は、半分の半分、つまり4分の1となります。
そこで、具体的に遺留分侵害額(長女側がもらえる権利がある額)を計算すると・・・
1億2,000万円+1,200万円=1億3,200万円
1億3,200万円×4分の1=3,300万円
つまり、長女側は3,300万円をもらえる権利があるわけです。
これまでだと、1,200万円の現金に加えて、さらに2,100万円の現金を用意するのは難しい、ということで、土地家屋を共有することで、直近の金銭負担を減らせるようになっていました。
しかし、民法改正後は、3,300万円を現金で支払わないといけません。
延納の手続きはできるとは言え、現金がなければ借入等を行い、現金を用意せざるを得なくなるため、事業や家を承継する人に取っては大変です。
一見、土地家屋の物納もOKがいいんじゃない?と思えるが・・
この話を聞くと、2,100万円の分も、現金の代わりに物でOKの今の制度がいいのでは?という人も多いでしょう。
しかし、物納をOKにすると、土地建物が複雑な共有割合になり、更に、長女が死亡するなど更に相続が発生すると、共有分が更に分割され・・・と、どんどん土地家屋の所有権者が増え、権利関係が複雑になってしまいます。処分や建て替えをしようにも、基本的には所有者全員の合意がないと手続きができません。
そこで、物納はNG、あくまで金銭債権(現預金)で、遺留分を請求するという形になりました。
正直、土地を引き継ぐ方は、今回の改正で不利になる一方、これまでは「ハンコ代」などの形で、遺留分ほどではないけれども、まとまった金額をもらうことで妥協した、土地を引き継がない相続人に関しては、遺留分として一定額を現金で請求できる、という有利な状況になります。
そのため、特に土地家屋を相続する、事業を相続する側は、これまで以上に他の相続人、その中でも遺留分を有する人に対する配慮が重要になってきます。
親から事業を引き継ぐ、土地を引き継ぐという人は、ぜひその点気をつけて下さいね。