信託契約を結ぶとき、信託財産の指定をしなければなりません。しかしあらゆる財産が信託財産として扱えるわけではありません。
そこでここでは「何を信託財産にできるのか」「何を信託財産にできないのか」について解説していきます。
信託財産とは
「信託財産」とは、信託により受託者に属することとなる、管理すべき一切の財産を指します。
例えば預金1,000万円の管理運用を誰かに任せる場合、この預金が信託財産ということになります。
信託財産にできる財産
基本的には、信託できる財産の種類に制限がありません。自由に本人(委託者)は信託することができます。
実務上も、以下に関しては信託ができず困るというケースは考えにくいです。
- 現金
- 預金
- 非上場の株式
- 特許権
- 商標権
- 農地以外の不動産
ただし信託財産にできる類のものでも、それぞれに注意点があります。
例えば賃貸物件を信託財産とする場合です。
このように収益を生む財産を信託するとき、当該物件のみならず、物件に係る権利金、敷金なども信託しておく必要があります。
また、これに付随して固定資産税の支払い義務なども生じます。その支払いができるよう現金もある程度信託しておくなどの配慮も必要になってきます。
信託財産にできない財産
実務上、農地、一部の投資信託、預金債権などは信託財産とできないケースがあります。
農地に関しては、一般的な土地と異なり所有権の移転に農地法上の許可が必要となるからです。原則として、信託を理由にこの許可は得られないとされており、信託の効力を及ぼさせることができません。
投資信託に関しては、信託の制度上というよりも、証券会社の対応可否に問題があります。分別管理に即した口座開設・口座名に対応していない場合にはこれを信託財産とすることが難しいです。
預金債権に関しては、通常金融機関との間で譲渡禁止特約が結ばれていることに由来します。そこで信託契約においては信託財産を「預金」と指定するのではなく、「金銭」と表記し、債権ではなく現金そのものに効果を及ばせるよう工夫しなければなりません。
その他、当然ながら生命や身体、そして名誉などの人格権は信託することができません。
さらに、マイナスの価値を持つ債務についても通常は信託財産に含まないと考えられています。
債務については勝手に債務者が変更されてしまうと債権者に不都合が生じるからです。仮に受託者に資力がなければ、債権回収が十分に果たせないリスクを負うことになってしまいます。逆言うと、債権者の合意を得ることができれば、信託財産として債務も移転させることは可能です。
このように、信託財産とできるかどうかについては、信託の仕組みのみに着目するのではなく、広い視点を持って判断することが重要と言えるでしょう。